更新日 2023年05月18日 | カテゴリ: 自分を変えたい
ユング派の心理療法家であるジェイムズ・ヒルマンは、その著書『魂のコード』(鏡リュウジ訳、河出書房新社、1998年)で「どんぐり理論」を提唱しています。人は誰でも、“自分の伝記”が書き込まれた一粒のどんぐりを持っています(ヒルマンはこれを“魂”と呼びます)。
どんぐりに書かれた個性は人それぞれ異なるユニークなものです。しかし成長過程において、遺伝や環境、親の養育態度、トラウマ、社会的な条件などさまざまな要因の影響があり、本当の伝記を生きられなくなってしまうことがあります。“こうでなくてはならない”と思い込んだ筋書きを生きようとしたり、“○○のせいだから仕方ない”など外的要因のせいにしてあきらめてしまったりします。
しかしヒルマンは、「一人一人の人間は生きることを要請されている個性(ユニークネス)、また人生の中で実現される前からすでに存在している個性をもっているのだ」と説きます。
そして「人は本当の伝記を、つまり、どんぐりのなかに書き込まれた運命を奪われてしまったのだと、わたしは強く思う。わたしたちがセラピーに行くのは、それを見出すためだ」と述べています。
つまり、セラピーを利用するのは“違う自分になる”ためではなく、“自分がもともと持っているどんぐりを見つける”ためなのです。
ヒルマンによると、どんぐりを取り戻すためには、日常生活の中で生じる「こんなはずではない」とささやく小さな声に耳を傾けることが大切だといいます。つまり、この世に対して抱くちょっとした違和感や生じてくる小さな問題に、その人本来の“魂”があらわれていると考えられるのです。以下に、「どんぐり理論」を通じて筆者が考えた、日常生活でできるいくつかのヒントを紹介します。
例えば友人が、旅行のお土産をくれるといいます。ピンクのハンカチと黄色いハンカチを取り出して、「どちらか好きなほうを選んで」と提案しています。あなたはパッと見たときに「ピンクがかわいい!」と感じます。
でも次の瞬間「いや、でもこのあとにあげる人もピンクがいいと思うかもしれない」「ここですぐに選んでしまうと“遠慮のない人”と思われてしまうかもしれない」…などさまざまな考えが浮かんできて、「え、どっちでもいいよ…」など煮えきらない態度を取ってしまいます。友人はその反応を見て「どちらも気に入らないのかなぁ」と感じます。この場合、あなたのどんぐりは「わぁ、ピンクのほうがかわいい!」と反応しています。しかし、“社会的な配慮”が邪魔して素直な反応ができず、結果的に友人との間にいまいちな空気が漂ってしまいます。直感に従って「ピンクのほうが好き」と答えることができれば、あなたはかわいいハンカチをもらえてハッピーだし、友人も「喜んでもらえてよかった」と満足したことでしょう。
一般的に、「感情で物事を決めるのはよくない」「理性を働かせるべきだ」といった風潮があります。しかし本来、人の情緒(特に好き嫌い)は、理屈ではなく本能や無意識から出てくることが多いものです。自分の直感にもう少し耳をすませてみませんか。
自分の中にあるどんぐりは、目で見ることができません。自らの感覚を使うことでしか、それにつながることはできないのです。では、感覚を鍛えるためにはどんな心がけが必要なのでしょうか。
何をしているときが心地よいですか? あるいは不快なときはどんなとき? 食べると幸せになれるものは? リラックスできる香りは何?気分よく過ごせる天候はどんな感じ?…という具合に問いかけ、「どんなときに自分がどんなふうに感じるのか」をできるだけ具体的に言葉にしてみましょう。
あるいは日常生活を送る中で、「今、私はどんな状態なのか」を自分に向かって説明する練習はどうでしょうか。例えば、朝、起きたとき、「少し寝不足気味だからすっきりというわけにはいかないけれど、天気がいいから気分は悪くない」。夜、帰宅したとき「今日はすごく体が疲れている。きっと上司から言われたことが気になって落ち込み気味だからだな」など、できる範囲でそのときの感覚を言語化してみるのです。
“自分がわからない”のは、気持ちや感覚がうまく言語化できないことにも一因があります。どんぐりに書かれた言葉が読めないと、“自分の伝記”は把握できないですよね。だから、自分のことをよく知るためには自分の感覚をできるだけ言葉にしていくことが必要なのです。
また、人は、“よくわからないこと”に対して不安や恐怖を感じやすくなります。逆に、ネガティブなことであっても、理由や原因がある程度わかっていることに対しては、不安はそれほど大きくなりません。感覚を言語化する心がけをしていると、「こういう気分になるときはこういう理由があるんだ」と自分の状態を把握しやすくなるのです。
“自分らしさ”に、客観的な正解も不正解もありません。「これがわたし」と自分で決めることができれば、それが正解なのだと思います。一旦見失ってしまった「自分のどんぐり」は、そう簡単には見つからないかもしれません。でも必ず誰でも持っているものです。あきらめず、自分の感覚を信じて探していきましょう。
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