家族のこころの傷の連鎖とカウンセリング~ポール・オースターの事例から|カウンセラー 鶴田 みさ

更新日 2019年03月01日 |
カテゴリ: カウンセリング
家族のこころの傷の連鎖とカウンセリング~ポール・オースターの事例から|カウンセラー 鶴田 みさ

偉大な芸術家、作家などの中には、人生の苦難を逆手にとって創作のパワーにつなげてきた人たちがいます。

『ニューヨーク三部作』(『ガラスの街』、『幽霊たち』、『鍵のかかった部屋』)などで知られるアメリカの現代作家、ポール・オースターの家族には、トラウマ(「心的外傷」、こころに傷を残すような、突然のショックな出来事)がありました。

オースターのおばあさんが、おじいさんを銃で射殺してしまったのです。おじいさんには愛人があり、その人を巡っての口論がきっかけとなってしまいました。

地元の新聞をさんざん騒がせた上、結局おばあさんは「狂気」を理由に無罪釈放となったのですが、言うまでもなくこの事件は、家族の上に濃い影を落としました。

オースターによれば、オースターのお父さんは自分や世界から切り離されてしまったような人だったと言います。自分の母が父を殺した、というような状況があっては、それまで自分が立っていた世界がガラガラと崩れ、戻らないような、そういう衝撃を子どもとして味わっていたとしても不思議ではありません。

そのお父さんが、オースターに妹ができたとき溺愛します。愛するあまり、自分で歩けるようになっても抱っこして階段を下ろしてあげるようなありさまで、やがてついにお母さんが、妹を児童精神科医のところに連れて行きます。

治療が必要、となったとき、お父さんはそれを受け入れることができませんでした。「こころの病」自体認められるものではありませんでしたし、精神科医のような、見ず知らずの赤の他人が自分の大切な家族を助けてくれるとは信じられなかったのです。

カウンセラーは赤の他人を助ける

しかし実は、「赤の他人」を助けることが、メンタルヘルスの専門家の仕事です。

厳密に言えば、自分の家族・親戚や友人など、知っている人たちの「治療」をするのは、メンタルヘルスの分野では御法度です。(精神分析がまだ創始されたころには行われていたりしましたが、弊害があるということで止められるようになりました。)もちろん親身になって聞いてあげることはできるのですが、家族や友人だと、自分に必然的に利害関係があったり、どうしてもバイアス(ものの見方の偏り)が生じたりするからです。

そのため、カウンセラーや専門家は、生育史や家族史などについて質問をしたり、会話を交わしたりすることによって、来談者の背景をできる限り理解しようとしていきます。

来談者の側からすれば、まったく知らない人にいきなり自分のプライベートな問題を相談するというのに抵抗がある、というのも理解できます。

カウンセラーはその抵抗や、居心地の悪さを和らげ、リラックスして話をしてもらえるようにいろいろ工夫します。そして、徐々に信頼を築いていって、こころの問題の元になっているであろう「核心」の出来事などを、安心して話せるようになってもらいたいのです。なぜならば、「話す」ことによって人はその問題を「放す」(あるいは、問題から解放される)ことができるからです。そうなるとこころがより自由になり、エネルギーが生じて、それを自分の必要なことややりたいことに注ぎやすくなります。

閉じた家族と信頼

オースターの家族のように、重大なトラウマが家族の中に起こると、秘密や罪悪感、恥の感覚、世間体など、さまざまな理由で、家族は閉ざされやすくなります。閉鎖的で、いざというときにも人の助けを借りられなくなってしまうのです。。

「人の助け」を心理学では「ソーシャルサポート」と呼んでいます。ソーシャルサポートが十分にない状態だと、ちょっと人に聞けばいいことや、ぐちを言ったり、助けてもらったりと、他人とのコンタクトがあれば流れていくことが、家族の中に緊張やストレスとしてたまっていきやすくなります。

仮に助けてもらえそうな状況があっても、助けの手を拒んでしまったりもします。オースターのお父さんがそうでしたが、仮にそのとき信頼できる治療者に出会っていたら、オースターもまた別の作家になるか、あるいは作家にならなかったというように、その後の流れが変わっていたのかもしれません。

家族の中に緊張やストレスがたまると、そこからまた新たなトラウマが生じたりや、ストレスが高じて心身の病気につながっていってしまう怖れもあります。

また、家族が外界からある程度切り離されていると、その家族独自の価値観を形成したり、優越感や劣等感を抱いたりもしやすくなります。

カウンセラーや専門家は時としてそんな「助けられ慣れていない」家族やその成員に出会うこともあります。カウンセラーに会おうとする成員は、家族に疑問を持っていて他人にあってみてもいいという勇気を持っている人なのかもしれません。その場合、カウンセラーが外界とのパイプのような役割を果たすこともあるでしょう。

「新風」としてのカウンセラー

 家族の中で(これは組織や団体と言い換えてもいいのですが……)いつもネガティブな思いや言葉しかなかったようなとき(または逆で、注意されるべき事柄があるのに、何もないかのようにいつも明るく振る舞っているようなとき)、カウンセラーは家族の中に「新風」を吹き込むことになります。これまで家族が馴染んできたものとは違った感じ方、見方、捉え方、などを持ち込むのです。

家族のやり方は世代から世代へと渡されていきますから、その流れを微力ながらいい方向に変えるということがカウンセラーが試みることです。

例えば、虐待歴のある家族で「虐待の連鎖」により、虐待されて育った親がまた自分の子どもを虐待する・・・といった悪循環の流れを、カウンセラーはなんとか断ち切ろうとします。

ごくごく簡単に言えば、親が自分が子どもとして受けた苦痛を理解し、それをそのまま自分の子どもに受け渡すのでなく、子どもの弱者としての立場に共感してコントロールできるようになれば、虐待は減っていくでしょう。

上手く行けば虐待といったネガティブな影響を及ぼす状況がないまま、家族の成員がそれぞれより自立して成長していけるような、そういう家族に変貌するでしょう。その次の世代でもそうした空気は保たれる可能性が高くなります。

家族のトラウマを抱えた芸術家や作家たちは、自分たちの表現手段を通じてそれをなんとかしようとする過程で、創作をするのでしょう。それは最初は衝動のようなものであり、ドロドロしているものであっても、続けるうちに、多くの人に生きる力を与えたり、重要なメッセージを伝えたりするようになるのかもしれません。

参考文献

ポール・オースター 『孤独の発明』(新潮文庫)

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