ヒトの進化と「助け合い」が持つ意味:欲しいときには、あげてみる|カウンセラー 鶴田 みさ

更新日 2023年05月18日 | カテゴリ: 人間関係を良くしたい

人間の本質は長い間あまり変わらない?

なんだか壮大な話になりますが、ヒト(ホモ・サピエンス)が誕生してから約数万年になります。
その間、もちろん人類は洞窟や森林を抜け出し、草原に進出し、道具を作り、農耕を始め……と様々な重要なステップがありました。現代では先進国で日常的に暮らしている限り例えば猛獣や天候、致命的な病気などにすぐ脅かされる、というような環境ではないのではないでしょうか。

いろいろなことを克服してきた人類ですが、ヒトをヒトたらしめ、チンパンジーなど類人猿と区別する特徴は、ある意味数万年の間あまり変わっていない面もあるのです。
こうした「人間とは何か?」を追求する学問を人類学と言いますが、ここでは人類学での発見を心理学に結びつけて考えてみたいと思います。

助け合う動物、ヒト

チンパンジーは、いまだに類人猿の中でヒトに一番近いと考えられています。3歳児くらいの知能を有しますし、教えると簡単な言葉を使えたり、ピンポイント的な能力ではヒトより優れているものすらあったりするそうです。

驚くべきことに、ヒトとチンパンジーとは遺伝子的には1%くらいしか違わないんだそうです。

ちょっと細かい話になりますが、そのチンパンジーを2匹並べて別々の檻に入れ、それぞれ道具を使わないとジュースが取れない、というようにしておきます。ところが道具は、自分のところのではなく相手のところにあるのを使わないと取れないようになっています。二つの檻の間には窓があり、道具の受け渡しはできます。

これがヒトなら、多分瞬時に判断して「はい」と自分のを渡し、相手のと交換してもらうのではないかと思うのですが、チンパンジーは、「相手から頼まれないとやらない」のです。

つまり、「助けてあげたら助かるだろうな」といった予測や想像はしない、できない、ということです。
また、助けてもらったからと言ってジュースを分けてあげたり、ということもないのだそうです。自分で全部飲んでしまうそうです。

助け合い、もっと難しい言葉だと「互恵性」(お互いに利益をもたらすように助け合うこと)はヒトの特徴です。なぜ人の助け合いの能力が発達したか?というといろいろな説がありますが、一つは森林から草原に進出して、キバなどの武器がないまま生き残らなければならなかったことで、知恵を働かせて協力するようになったという見方があるようです。

面白い説としては、ヒトの胎児は頭が大きくなり、かつ二足歩行のために骨盤が狭いため、難産になりやすく、出産の際に必ず介助を必要とする、ということを原因として挙げている学者もいます。
またその後の子育ても、チンパンジーは一人の子を5歳くらいまで母親が一人で育て、それから次の妊娠をする、というスタイルなのに対し、ヒトは授乳が終われば妊娠できるので、未熟児のような子を次々と産んで、周りの人たちと協力しながら育てる、というスタイルだといいます。

確かにほかのことにも増して出産と子育てとは、母親が単身でやるには大変なことです。お産をまったく一人でやる、ということは極端な状況でない限りないでしょうし、子どもが小さい頃には、孤立している母親でもない限り何らかの形で他人の手を借ります。家族、親戚、友だち、保健師、保育士、小児科医など、赤ちゃんに関わってくれる人はいろいろいるでしょう。離乳してくれば母親以外の人が食事を与えることも可能であり、この辺もヒトの特徴です。

ヒトのダークサイド、破壊力

助け合う、協力する、という素晴らしい能力で生き延びてきた人類ですが、同時に望ましいとは言えない破壊力も持ち合わせることになってしまったようです。

動物の場合、例えば犬同士のケンカなど、下の位置になっておなかを見せたら降参、というように無駄にいのちを取ったりケガをしたりしないような「機能的な」ケンカが主流ですが、ヒトはヒトのいのちを取ってしまう、ということが有史以来ありますね。
また、狩りをするといった生き残りのために開発された道具も、人のいのちを取るために使われてしまう結果にもなりました。

こうした二面性は、ヒトとして備わったもので仕方ない側面もあるかと思います。と同時に、破壊力の方を何とかコントロールするために、ヒトはまたいろいろな能力を発達させたり知恵をしぼったりしてきたとも言えるでしょう。

助け合いは生まれつきか? 学ぶものか?

さて、助け合いの方に戻りますが、助け合い、「お互い様」のこころは人間にある程度生まれつき備わっています。1歳くらいの赤ちゃんが、自分が食べているものなどを人(親に限らず)に差し出したりします。しかし、こうした子どもの側からの自発的な「あげる」という行為を、周りが受け取ってあげないと、「あげる-もらう」のサイクルが樹立されず、「あげる」行為が宙ぶらりんになってしまいます。

幼い子どもはまた、自分にまだできないことをやろうとしたり、親を助けようとしたりもします。明らかに危ないことであれば止めるべきですが、そうでなければ多少危なっかしくてもやらせてあげると、相互性だけでなく積極性も培われることになるでしょう。

おそらく相互性自体の種は人間の中に備わっているのですが、相手に拒否され続けることでそのせっかくの芽は摘まれてしまう(または眠ってしまう)のです。これはとてももったいないことではないでしょうか。

カウンセリングにも助け合い、相互性がある

やや話が飛びますが、カウンセリングもそうした相互性と無関係ではありません。

カウンセリングにはいろいろな「手法」がありますが、よりアドバイスや指示寄りのカウンセリングであれば、カウンセラーが「あげる」方法や対策を、相談者は受け取って使ってみる、というやりとりがあります。
カウンセラーがより傾聴したり、相談者が自由に語ったりする方式のカウンセリングでは、相談者のライフ・ストーリーをカウンセラーが受け取り、それに対し感じたことやポイントなどをフィードバックとしてあげます。

またこれも、ライフ・ストーリー(いわば自分の一部)を「あげている」と考えることもできます。
いずれにせよ相談者は自分が抱えている悩みをある程度開示するというリスクを取らねばならず、カウンセラー側は相談者がそうしやすいように、安心できる安全な環境を提供するように努めます。

相談者がどれくらい能動的・受動的であるかは相談者のニーズや好み、手法やカウンセラーのやり方、カウンセリングや回復の段階……などによって違ってくると思いますが、「あげる」「もらう」つまり「ギブ・アンド・テイク」のサイクルがここにも存在します。

相互性のサイクルがスムースなときは、人間関係は比較的上手くいっていると言えるでしょう。カウンセリングの関係だけでなく、家族、職場、友だち関係などいろいろな場を、相互性という切り口で見てみると人間関係を改善する糸口が見つかるかもしれません。

 「……してくれない」と待っている、不満に思っているときなどには、逆に勇気を出して自分から何かアクションを起こして「……してあげる」「……してみる」のも一つの方法です。

ヒトの本来の特性からしても「助け合い」を心がけることで、人間関係は良くなっていくのではないでしょうか。

参考文献

「ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか」 ーー NHKスペシャル取材班

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