【対談】うつ病治療における『認知行動療法』の内情と効果について 新潟大学教授 神村栄一 ✕ 合同会社カウンセリングルームさくら代表 小林奈穂美

更新日 2023年05月18日 | カテゴリ: 専門家インタビュー

うつ病の治療において「認知行動療法」の注目が高まってきてる昨今。しかし、その内情は?効果は?懸念は? 実際にカウンセリングルームを運営されている、カウンセリングルームさくら代表である小林先生と、新潟大学教授でカウンセリングさくらでもカウンセラーとして現場に立たれている神村先生に対談して頂きました。


「うつ病」の見極めは難しい

神村:「うつ病に認知行動療法がとどめをさす」はさすがに言い過ぎですが、うつ病から回復するための決め手として「認知行動療法」という心理治療・カウンセリング手法について関心が高まっていますね。

小林:さすがに最近は「認知行動療法」のことを「認知症の方のための治療法ですか」と誤解されることはなくなりましたね。(笑)

神村:小林先生は臨床心理士・専門行動療法士として合同会社カウンセリングルームさくらを経営され、たくさんのクライエントさんを支援されていらっしゃるわけですが、カウンセリングを求めてこられる方のうち、どのくらいまでをうつ病の方が占めていますか?

小林:ざっと3割ほどを、成人のうつ病の方が占めております。加えて、中学生や高校生、大学生の不登校、ひきこもりなどは、事実上、思春期青年期のうつ病と見なせますから、それも含めれば4割ほどになりますね。 その他のクライエントさんは、不安症や習癖、ご家族の問題でお見えになりますね。

神村:我々臨床心理士は、医学的診断に直接関わりませんが、うつ病は見極め・診断が意外と難しいですよね。医療機関からうつ病と診断されてお見えになる方も少なく無いと思うのですが。

小林:そうですね。ご家族の問題・ご夫婦やパートナーとの問題・職場の人間関係の問題・取り越し苦労や過剰な囚われなどが背景にあって、心のエネルギーが消耗してしまい、その結果うつの状態に陥り悪循環から抜け出せなくなった、という方が中核をなしていますね。

神村:その点に関して、こういう言い方が許されるかどうか微妙ですが、わかりやすく言えば「ホンモノのうつ病」と「結果として至ったうつ病」に分けられるように思います。「医療機関でうつ病と診断され薬物治療を開始したのですが、経過がイマイチなのでカウンセリングを勧められました」というような方の場合、圧倒的に後者が多いということはないでしょうか。

小林:仰ることはよくわかります。これも少し雑な表現になってしまいますが、「ひと皮向けば、うつ病以外のさまざまな生活上の困難、精神症状を抱えておられ、それがにっちもさっちもいかなくなった末のうつ病」という、まさに「結果として至ったうつ病」という方がメインになっていると思います。

心や考え方をほぐす「認知行動療法」

神村:今でも時々「うつ病にカウンセリングはダメ」というお医者さんがいらっしゃいますよね。そう指示したくもなるケースがあることを全く理解できない訳ではありませんが、「カウンセリングが治療方法として適当ではない」方は「うつ病」と診断される方のごく一部であり、「結果として至ったうつ病」がこれだけ多いことに対し、お医者さん達がしっかり向き合っておられない発言のようにも思います。たしかにカウンセリングも万能ではないので、「カウンセリングで良くなっていない方もいるじゃないか」と言われれば、認めざるを得ませんが。

小林:誤解ないようにつけ加えれば「結果として至ったうつ病」の可能性が高い方であっても、薬物療法が無効だというわけではないですからね。顕著に効く方、完治まではいかなくてもかなり良くなられる方も相当数いらっしゃる。

神村:まず、少しお薬が効いて徐々に本来の意欲・活動性が高まってくれば、生活の中から楽しみを得ることができますからね。本格的に認知行動療法を受けるということでなくても、認知行動療法の立場から推奨できる良き環境で、良き振る舞いや捉え方が自然とできるようになることはありますからね。

小林:そう思います。心理療法というのは、例えるなら、筋緊張性の頭痛で苦しんでいる方に、今から筋肉の弛緩方法を身につけませんか、というようなところがありますね。タイミングよく、無理なくすすめていくことも大切ですね。お薬で心と身体に余裕ができれば、自然と生活が良い方向に変化していく。これは認知行動療法が目指すところと同じです。

神村:人間関係に対する過剰な恐怖や不安といった不安症や、儀式的な行為・過剰な手洗いや確認といった強迫症、お酒のコントロールに依存してしまっているといったことで、仕事や家庭に支障をきたして、その悪循環から逃れられない方も多いのでしょうね。

小林:はい。不安症、強迫症、依存症といった問題が背後にある方の他に、人間関係を上手く構築できない、言っていいこと・言うべきことを言わずに我慢しすぎる、というようなことで疲弊しきっている方や「かくあらねばならない」という思い込みから抜け出せなくなっている方も多い。こういう言い方をしたら、医療の専門の方々からは「何を生意気に」と思われるかもしれませんが、時々「うつ病」というカテゴリーに意味があるのか、素朴に疑問を感じることもあります。

まずは「なんとかなるかもしれない」という展望を持ってもらう

神村:特に認知行動療法では、ご本人が自分の困った状況の中に悪循環のパターンを捉え、そこから抜け出すために、比較的簡単な課題から徐々にこなしていく事を促すわけですが、合同会社カウンセリングルームさくらではどのように配慮されていますか。

小林:ある程度具体的な情報が必要なので、それを頂くための会話から始まります。その作業を進める中で、来談されたご本人の中に「希望が湧いてくる様に伺う」ということを意識しています。信頼感、安心感はもちろん基本として大切ですが、「カウンセリングでなんとかなるかもしれない」という展望が見えてこないといけません。カウンセリングと称して「諦めませんか」というのをやんわりと勧めるだけの支援もよくありますからね。

それから、その方の調子の悪さはどんな展開として捉えることができるのか、どんな状況で何がどのように気になるのか、それは嫌悪的なのか、どのような衝動(避けたい・接近したいの両方があり得ます)を持っているのか。そしてその衝動がどのような言動の癖、アクションの癖につながるのか、それが周囲にどのような影響をもたらしているのか、その結果がどんな展開をまねくのか、こういった一連の流れを具体的に教えて頂くのです。 いわゆる、悪者探し・原因探しをするわけではありませんね。

神村:よく誤解される方がいらっしゃると思うのですが、希望を育むといっても「闇雲にポジティブ思考を求める」というわけではありませんよね?

小林:その通りです。ポジティブもネガティブもない、というより、よくある展開を明らかにする。そして、そのよくある展開に変化が起きるような状況設定を考案し、試してみるというのが、正解です。

お客様の現状を理解し、今に至った背景を読み解く

神村:具体的に言えばどんな事例が多いのでしょうか。

小林:例えば、将来に明るい展望を持って仕事に就職したとしますよね。ところが、なかなかコツを覚えられないといった展開ですね。一生懸命にやれば自ずと良い結果につながるということは、現実の社会ではむしろ少ないですよね。何ごとも、力を入れるとき・力を抜くときのバランスが大切です。

ところが、うまく力を抜けずムキになり失敗する。他の人が上手に力を抜いて要領よく仕事しているのを見ると、生きているのが嫌になる。虚しくなったり、誰かを恨みたくもなる。そんな衝動が、家族やパートナーとの関係、あるいは自分の生活の破綻に繋がってしまう良くないふるまいとその結果をまねく、という展開。そこまで至らなくとも、コミュニケーションや相手の気持ちの受け取ることが難しくなり、ちょっとした上司の叱咤激励、同僚の言葉かけが許せなくなったりする。

そういう方に、少し落ち着いた環境でエピソードを報告してもらい、徐々に客観的なとらえ方が出来るようにカウンセリングします。その結果、気持ちが落ち着く。そういう経験をカウンセリングの中で振り返ってもらうことで、ほどよく力みが抜けたときの感覚とそのメリットを味わってもらいます。この様な経験を効果的に繰り返して頂きやすくするのが、少なくとも私にとっての認知行動療法なんです。

神村:それは私も同じです。もっとも、認知行動療法というのは今日とても大きな体系になっていますが、小林先生も私もどちらかと言えば「行動療法をベースとした認知行動療法」ですね。

小林:そうです。年齢層も学歴も様々で、発達障害などの特性を抱えておられる方も少なくない。そういうカウンセリングルームのカウンセラーとしては、「行動療法をベースとした認知行動療法」がとても便利です。「認知療法をベースにした認知行動療法」が有効なケースもありますが、対象がやや狭くなるのではないでしょうか。

カウンセラーの自己満足になりがちな業界

神村:様々なカウンセリング手法は、カウンセラー自己満足のためでなく、カウンセリング利用者の為にあるものです。どうも我が国のカウンセリングは、カウンセラーの好み、もっと言えば「趣味・嗜好」に応じてカウンセリング手法の選択が容認されすぎで、利用者の利益が後回しになっているようにも感じます。「その困り事には、この方法が今のところ専門家の間ではベスト、ないしベターであるとされています。」と説明した上で合意を得ているカウンセラーがいるのか、怪しいところがありますよね。

小林:本当にそうですよね。私は、ビジネスの世界を経験してからこの領域に入ってきたのですが、どうしてもそこには違和感がありました。

神村:認知行動療法というと、カウンセラー主導で進むかのような誤解もありますが、そうでもないですよね。私は、ギャンブル依存・性の問題行動がやめられない方・その他の習癖から抜け出せない方の支援をすることが多いのですが、家族や恋人・親友やお世話になっている先輩などに対しても上手に話せない困りごとについて、正しいとか正しく無いという価値観から離れ、心の内をありのまま語ってもらうということがとても重要ですよね。そしてその上で、戦略的に良き変化をもたらす可能性にとりかかります。

実際に、100%の完治というのは早々あることではないのですが、さほど時間やお金をかけずに「ずいぶん生活しやすくなりました」と喜んでもらいやすい手法が、認知行動療法ですね。

小林:そうですね。心の支援はベテランのカウンセラーでもついつい、あれもこれも様々カウンセリング手法を用いがちですが、基本の軸があればぶれませんからね。なにより、認知行動療法はクライエントさんに理解して頂きやすいところがありがたいと思っています。カウンセリングもサービス業ですから、利用されるご自身の納得を得ることは大切ですからね。

神村:そうですね。我々含め、多くのカウンセラーがそういった意識を持つことで、我々を必要とする方々に対して、より良いカウンセリングを提供してきたいものですね。

本日はお忙しい中ありがとうございました。

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