「カウンセラーになりたい!」と思ったとき、最初に読むべきコラム: 傷ついた治療者の物語 | 臨床心理士 東畑開人

更新日 2023年05月18日 | カテゴリ: 専門家インタビュー

13歳のハローワークを読もう

カウンセラーは人気のある職業のようです。
13歳のハローワーク公式サイト」の最新アンケートによれば、グランドホステス、司書に続いて、なんと臨床心理士が三位にランクインしています。去年は二位だったそうです。
「BrushUp学び」の「今10代だったらなりたい職業は?」では心理カウンセラーが堂々一位に輝いています。

実はこの結果について、私はちょっと驚きました。
「カウンセラーになりたい」という人がそんなにもたくさんいるとは思ってもいなかったからです。

でも確かにそうです。
世の中にはカウンセラーになるための大学や大学院がたくさんありますし、何やらよくわからないカウンセラーになるための講座やスクールも星の数ほどあります。それだけ「カウンセラーになりたい!」という人が多いということなのでしょう。
でも、なぜそんなにカウンセラーは人気があるのでしょうか。

確かに、カウンセリングには大きなやりがいがあります。
困っている人や苦しんでいる人の助けになることにはやりがいがありますし、カウンセリングを行う中で人間のこころの奥深さや繊細さを学ぶことには大きな魅力があります。
私自身、10年間この仕事を続けていて、色々と苦しいこともあるけれど、人生をかけるだけの価値のある仕事だと思っています。

ですが、人生をかけるだけの価値のある仕事は他にもたくさんあるのです。
ご存知の通り、様々な仕事があり、様々なやりがいがあります。決してカウンセラーだけがやりがいのある仕事なわけではありません。
そして残念なことに、カウンセラーという仕事は、経済的には決して報われる仕事というわけではありません。大学院を出たようなカウンセラーの多くが、日々薄給にあえぎながら、カウンセリングの仕事を行っています。

さらに残念なことに、ほとんどのカウンセラーが、観葉植物のあるようなきれいなオフィスで一対一のカウンセリングをしているわけではありません。
ときには、病院で患者さんの送迎のためにマイクロバスを運転したりすることだってあります(私も昔やっていました。これはこれで味わいがある仕事です)。

カウンセラーにも色々な仕事があるのです。
世間一般のイメージ通りのカウンセリングの仕事をしているカウンセラーは本当に一握りなのです。

カウンセラーになる前に、まずはそういった現実をしっかり下調べする必要があるでしょう。

私の同級生の精神科医は、高校時代に臨床心理士になろうかと思ったらしいのですが、「13歳のハローワーク」を読んで、「食えない」仕事だと知ってやめたそうです。
「13歳のハローワーク」を読まなかった私は臨床心理士になりました。
後悔をしているわけではありませんが、何事も下調べは大事だとそのとき感じました。

「それでもカウンセラーになりたい!」「カウンセラーになるには?」という人へ

ただ、それくらいのことは多くの方々がお調べになると思います。
そして経済的には厳しくても、それでも「カウンセラーになりたい!」と思われる方も少なくないと思います。

「カウンセラーになりたい!」という気持ちってとても強いものなんです。蛇が出ようが、クマが出ようが、簡単にくじける気持ちではないわけです。

ですが、なぜそれほどに「カウンセラーになりたい!」という気持ちは強いものなのでしょうか。 「カウンセラーになりたい!」とはどういう心理なのでしょうか
このコラムではそういったことを少し考えてみたいと思います。

というのも、少なからずこの業界を見聞してきて、私は「カウンセラーになりたい!」人には具体的に大学や大学院に進学したり、何らかの資格講座に申し込みをされたりする前に、必ずするべきことがあると考えているからです。

それは、カウンセラーになる前に、自分がカウンセリングを受けることです。カウンセラーになる前に、クライエントや患者になってみることです。

驚かれるかもしれませんが、そこには深い理由があります。

「カウンセラーになりたい」という気持ちは、カウンセリングを受ける中でもしかしたら違う形になっていくかもしれないということです。そしてそれがあなたの人生にとって、より実りのある形かもしれません。

特に、このコラムを読んでほしいのは、一度社会人になられてから、「カウンセラーになりたい」と考えておられる方々です。というのも、その方々は自分の人生を大きく変える決断をしようとしているからです。

そこで、以下に「なぜカウンセラーになりたくなるのか」について、書いてみたいと思います(あ!高校生以下については、とりあえず13歳のハローワークを読んでから、ご両親と相談してください!!)。

ちょっと不思議なカウンセラー養成講座

実はカウンセラーという仕事は誰でも、いつでも始めることが出来ます。明日からでも、いや5分後からでも、「私はカウンセラーですよん」と名乗れば、カウンセラーになることが出来ます。

というのも、医療行為は医師や看護師などの限られた人にしか国が許可していませんが、カウンセリングという仕事は、だれでも自由に行っていい仕事だからです。

だってそうですよね。私たちはしょっちゅう誰かに相談を聞いてもらいますし、誰かの相談を聞いています。それらをいちいち国が許可したり、許可しなかったりするわけにはいきません。

そういう事情もあって、世間には星の数ほどカウンセラーになるための学校があり、同じ数だけカウンセラーの資格があります。
たとえば、臨床心理士、産業カウンセラー、心理カウンセラー、アロマカウンセラー、ファイナルヘブンカウンセラー、イワシの頭カウンセラー2級などなど
(最後の方はテキトーです)。

臨床心理士のように大学院で実地訓練を受け、その上で試験に合格しないといけない資格もありますが、実は世間一般のカウンセラーの資格とは、そのほとんどがカウンセラーとして十分なスキルを学べるとは言えない資格です。

通信教育がメインだったり、何か月か授業を受けるだけで資格がもらえたりします。下手したら三日で資格がもらえる講座もあります。しかもそれらの多くがかなり高額です。そしてそれを受講する人は少なくありません。

普通に考えれば、人の心を扱うという仕事が、そんなお手軽にできるようになるはずがないのですが、「これでカウンセラーになれるんだ」と思って、ついついそういったちょっと不思議な講座に申し込んでしまう人もいるわけです。
そして、資格を得て、カウンセラーを名乗るようになったものの、お客さんはゼロという悲惨な状況が生まれています。

高額を出してまで、カウンセラーになりたいという人が多いということです。そういう人にとっては「カウンセラーになること」がとても大事なのです。

しかし、なぜでしょうか?一体「カウンセラーになる」ってどういうことなのでしょうか。

「傷ついた治療者」という物語

野の医者は笑う―心の治療とは何か」という本で詳しく書きましたが、「傷ついた治療者」という心理学・宗教学の理論があります。
治療とは、傷ついた人や病んだ人によってよってなされる仕事だという理論です。

これは現代医学には当てはまりません。

インフルエンザの医者は診察を休むべきですし、手術をする医者の手に傷があったら、そこから感染症が発生してしまうことだってあります。
体を診る医学は科学ですから、治療者は滅菌されて、余計な影響を患者に与えないのが大切です。

ですが、科学的医学以前の治療の世界では、治療者はしばしば傷ついていました。
ギリシア神話に出てくる最初の医者であるケイロンは、ヘラクレスの毒矢によって苦しみました。その弟子である医神アスクレピオスは母親を父親によって殺されたというドラマチックな過去の持ち主です。

世界各地のシャーマンや霊能者も、もともとは自分自身病んでいて、自分を癒すために修業を行い、そして最終的に人を癒すようになった人たちです。
現代でも、医者や看護師の書いた自叙伝の多くには、自分自身の傷つきが書かれていますし、自助グループというのはまさに傷ついた人が他の傷ついた人を癒すというシステムです。

そうです。本人が傷ついているから人を癒すことが出来るし、人を癒すことが自分を癒すことになるのです。

そういう仕組みのことを、「傷ついた治療者」と言うのです。

傷と癒しは表裏一体なのです。
薬の語源となったギリシア語「パルマコン(Pharmacyに連なります)」には毒という意味がありますし、そういえばアスクレピオスの持つ杖には蛇が巻き付けられています。

だから、傷ついた治療者の物語は多くの「カウンセラーになりたい!」と思う人にもあてはまります。
「人を癒したい」「誰かの役に立ちたい」という動機の裏には、自分の傷つきを癒したいという思いがあるということです。

グッゲンビュールクレイグというユング派の分析家は、自らの傷つきを忘れたカウンセラーはクライエントのことを傷つけてしまうということまで書いたりしています。
実際、臨床心理学の大学院に入ってくる院生の少なくない数が、自分が昔受けた傷から学んだことを活かしたいと志望動機を語ったりします。

こう書くと、「それじゃあ、偽善者じゃない?」と眉をひそめる人もいるかもしれません。

私はそうは思いません。それは立派なことです。

傷ついているからと復讐に走るのではなく、人をケアすることを選ぶのは人間の尊さではないかと思います。
それに治療者とはそもそもそういうものなのです。傷と癒しは表裏一体なのです。

私たちは傷ついたことで、同じように傷ついている人の気持ちが痛切にわかりますし、人の役に立つことで自分の価値を確認することがあります。
人間はお互いにケアをしながら生きていく生き物だということです。

でも、だからこそ、カウンセラーになりたい方には、まずカウンセリングを受けてもらいたいと私は思います。

「カウンセラーになりたい!」の裏で、本当は何を求めているのか

「カウンセラーになりたい!」という思いの裏には、傷つきがあるということを書いてきました。
それは多くの場合、心の傷です。
心の傷があるから、心を病んだから、あるいはそういった傷や病を克服した過去があるから、「カウンセラーになりたい!」と思うということです。

だからこそ、高額であっても怪しげなカウンセラー養成講座は大流行しているのです。
カウンセラーになることが、自分の傷つきを癒すことであるという構造がそこにはあるわけです。

そのことを私は否定しません。
何度も繰り返していますが、治療者になるとはそういうことなのだと思います。
ただ、現実にカウンセラーになるというのは、大きく生き方を変えていくことでもあります。特にすでに社会人であった人たちにとっては、それは本当に大きなことです。

カウンセラーになるというのは、経済的には困難な道ですし、納得のいく仕事をできるとは限りません。
ですから、カウンセラーになる前に、まずは自分自身がカウンセリングを受けることをお勧めしたいのです。

今の人生の何が苦しくて、何を変えたいのか。自分は本当は何を求めているのか。
それは本当はカウンセラーになることではないかもしれません。
自分自身の傷や苦しさをよく見てみて、そこから未来についてじっくりと考えることをお勧めしたいのです。

カウンセラーになる前に、ちゃんとしたカウンセリングを受けよう

実はフロイトやユングといったカウンセリングの大元締めの人たちは、カウンセラーが自分自身カウンセリングを受ける必要があると言っていました。

実際、今でも精神分析などを実践する人たちは、訓練の中で自分自身が分析を受けます。そのようにして自分自身の心の癖を知り、心をうまく使うことを学ぶわけです。

ですが、不思議なことに、「カウンセラーになりたい!」人はたくさんいますが、そういう人たちはカウンセリングを受けることに抵抗があることが多いのです。
でもこれっておかしいですよね。カウンセリングを受けるのに抵抗があるのに、人にカウンセリングをしたいというのは、ちょっと変な気がします。

だから、思い切って「カウンセラーになりたい!」人はカウンセリングを受けてほしいと思います。 カウンセリングを受けた結果、「それでもカウンセラーになりたい!」「カウンセラーになるには?」と思われたなら、きっとそれは本物です。
そのような方は、カウンセラーになったとき、カウンセリングを受けた経験が間違いなく役に立つはずです。

あるいは「別にカウンセラーじゃなくてもいいや」と思うようになる方も多いと思います。そのときには、その方は借りものじゃない自分自身の生き方を着実に歩まれているのだと思います。

このとき、ぜひきちんと訓練されたカウンセラーにカウンセリングを受けてもらえたらと思います。
すぐにカウンセラーになるための講座に誘い込むカウンセラーではなく、大学院を出て資格を取り、その後も経験と研修を重ねたカウンセラーと出会ってもらえたらと思うのです。

臨床心理学は日本でも長い歴史があり、きちんと訓練を積んだ本物のカウンセラーをたくさん養成してきました。
自分を見つめることは苦しいことですが、そういう苦しい旅路を共にする、そういう訓練を受けてきたカウンセラーたちのもとを訪れてもらえたらと思います。

カウンセラーになるためには、大学院に行き、資格を得るまでに、3年間で300万弱くらいのお金がかかります。そして現在ある職を捨てなくてはいけないこともしばしばです。それは大きな決断なのです。

その前に、カウンセリングを受けて、自分の傷つきを噛みしめ、自分を見つめ、そしてこれからの生き方をじっくり考えて、答えを出すことが大切だと思います。

「カウンセラーになりたい」

「カウンセラーになるには」

そう思ったときに、最初にするべきことは、カウンセリングを受けることです。

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