心の負担から立ち直る力「レジリエンス」を高めて幸せな人生を|九州大学学術研究員 井隼経子

更新日 2023年05月18日 | カテゴリ: 専門家インタビュー

世の中で関心が高まってきている「レジリエンス」とはなにか

私たちは日々の生活の中で心にダメージやストレスを受けることがあります。この状態からどのように元の健康な精神状態に戻るのでしょうか。ダメージが深刻な場合、カウンセリングや専門的な援助を受けてみるのも一つの手だと思います。

ですが、特にこういった援助を受けなくても、私たちは健康な精神状態に戻ることができるのです。それはなぜでしょうか?それは、私たちの心にはダメージを受けた状態から自ら元の状態に戻る力があるからなのです。その力のことを「レジリエンス」と言います。

レジリエンスは日本語に翻訳すると「精神的回復力 (小塩他、2002)」や、「弾力性 (石毛・無藤、2006)」、また、折れない心などと表現されています。また、アメリカ心理学会の定義では、「レジリエンスとは、逆境、トラウマ、悲惨な状況、脅威、ストレスなどの重大な原因に直面したとき、うまく適応していく過程」であると定められています。このように、私たちの心はその場や状況にうまく適応できるよう、変化していくことができるのです。

レジリエンスについては、現在色々な考え方があります。その一つがレジリエンスは心の特徴であるという考え方 (例えば、Wagnild & Young, 1990, 1993;小塩他、2002) です。この考え方は、「外向性」や「神経症傾向」といった性格の特徴と同じようにレジリエンスを考えています。

私達の中には人前で話すときに恥ずかしいと思ってうまく話せない人もいますし、そうでない人もいます。レジリエンスがもし性格のようなものであれば、何か心にダメージを受けることがあったときにうまく回復できるタイプの人もいれば、できないタイプの人もいるということになります。

対して、レジリエンスは心を回復させるための力や回復していくプロセスのことであるという考え方もあります (荒木、2005; Luthar, Cicchatti, & Becker, 2000; Masten, Best, & Garmezy, 1990)。レジリエンスに関する研究をみていると、実際にはこのどちらもが備わった広範な心の機能であることが分かります (井隼・中村、2008)。

私はいつまでもいろいろ引きずってしまう…私のレジリエンスは低いのではないだろうかと思う人もいるでしょう。ですが、心配はいりません。レジリエンスは、確かに先天的に持っている部分があると思いますが、後天的に学習し、獲得していくことができるものでもあるのです (平野、2010)。

レジリエンスが「高い」人の特徴とは

具体的に「レジリエンスが高い」とは、どういうことを指すのでしょうか?このことを調べるために、心理学の研究ではいろいろな工夫がなされています。その一つが質問紙調査です。質問紙調査とは、簡単に言うとアンケートです。

これによりこれまで観察や事例研究でピックアップされてきた、重要だと思われるレジリエンスの特徴について、より簡単に、たくさんのデータを集めて分析することができるようになりました。Wagnild and Young (1993) が作った質問紙尺度では、レジリエンスが高い人とは、自己有能感が高く、人生や自分に対する受容が高い人であることが示されました。

ですが、レジリエンスの高い人というのはもっと他にも特徴があります。彼らに続いて様々な研究でレジリエンスを知るための尺度が作られてきました。各尺度にて取り上げられる特徴は研究の目的や対象となる人によって多少違ってきますが、その中で、だいたい共通して出てくるものがあることがわかってきています。

それは、自分自身を信じること (自己効力感、自己肯定感)、楽観的であること、自分の思考や感情を柔軟に調整できることです。日本国内の研究では、いろいろな年齢や職種、あるいは特定の状況下にある人達に対するレジリエンスが取り上げられていますが、おおよそ共通して重要であると思われるものは上記の3つでしょう。

これら3つの特徴は「自分自身」がどのような人間であればレジリエンスが高いといえるのかというものですが、他にも周囲の人たちとの関係も重要な要因であることが指摘されています。

他者との良き関係が自分自身を信じる原動力

これはソーシャルサポート (友達、家族、会社の同僚や級友による直接的・間接的援助) と言われ、以前から多くの研究でレジリエンスが高い人は周囲の人たちと良い関係を築いていることが知られてきました (例えば、Werner & Smith, 1992)。

他者と愛着を形成し、良好な関係を築くことができることと傷ついた心を回復させる機能は非常に密接な関係があると言えるのです。こうした他者との関係は、自己肯定感を高めたり偏った考えや気持ちを和らげたりするきっかけともなります。

このように、自分を信じること、楽観的でいること、思考や感情を柔軟にもつこと、そしてソーシャルサポートの充実がレジリエンスを規定する要因といえるでしょう。特にソーシャルサポートは自分の内面の要因の効果を高めるためにも重要です。

家族はもちろんのこと、情緒的に寄り添ってくれる存在、また、ともに何か目標を目指す仲間や自分の手本となるモデルのような存在をレジリエンスが高い人は持っていることが明らかになっています (井隼・中村、2008)。こうした人達に支えられ、自分自身を成長させていくことができるのでしょう。

行動する勇気を持つことが大切

私たちはこのようなレジリエンスを規定する要因をどれくらいうまく使えているでしょうか?相談できそうな人は周りにいるけれど、いまいち遠慮して言い出せないということはないでしょうか。

友達はたくさんいるし、よく楽観的だねといわれるけれど、ストレスや嫌な出来事があったときになかなか気分が晴れない、すぐ諦めてしまうといったこともあるのではないでしょうか。レジリエンスは、自分の持っている要因をうまく活かしているかどうかが重要であるという考えがあります (井隼・中村、2008)。

これは上記にもあるレジリエンスを能力やプロセスとして考えることに当てはまるでしょう。この考えでは、レジリエンスが高い人は自分の中にある楽観性や柔軟性、そしてソーシャルサポートをどれくらい・どのように使っているのかについて注目します。

そして研究の結果、レジリエンスが高い人は低い人よりもうまく、より様々な要因を明示的に活用していることがわかったのです。例えば、失敗してもあまり気にし過ぎない、開き直るという楽観的行動や、他の趣味など好きなことを行って気晴らしをするといったことをよく行うことがわかりました。

また、周囲の人間に対しても実際に悩みや思いを打ち明けたりその行動を手本として再チャレンジしたりといったことをしているようです。対してレジリエンスが低めの人は、周囲の人に対してはなかなか相談できない、迷惑をかけてしまうのではないかという気持ちが生じ、実際に相談するという行動までは繋がりにくいようです。

いざなにかが起こったとき、その先の行動を起こせる勇気があるかどうかがレジリエンスの違いなのかもしれません。

ソーシャルサポートをしっかりと活かしていく

ここで、一つ興味深い実験の結果があります。潜在連合テスト (IAT) という私達の潜在的な態度を知る方法があります (Greenwald & Banaji, 1995)。潜在的な態度とは、私達が普段意識していない部分です。このIATを使って、自分と周囲のソーシャルサポートとがどれくらい結びついているのかを調べました (Ihaya et al., 2010)。

その結果、質問紙で自分にはモデルになるようなソーシャルサポートがないと答えた人であってもIATでは自分とソーシャルサポートとの結びつきを強くもっていることが示唆されました。

つまり、私たちは実際にうまく活用できていなくても、モデルとなるような存在は必要であると潜在的に理解しているのかもしれません。このことからも、自分の持ちうるものを―たとえそれに気づいていても気づいていなくても―実際に活かしていくことができるかどうかがいかに重要であるかが分かります。

脳科学・神経科学でも注目される「レジリエンス」

現在、レジリエンスは心理学の分野だけでなく、脳科学や神経科学でも大きく取り上げられています。神経科学的な研究では、例えばレジリエンスが高い人の脳活動について、島皮質といった特定の部位の活動が重要である可能性が繰り返し示唆されています (van der Werff et al., 2013)。

他にも臨床遺伝学では、レジリエンス機能の発現とセロトニントランスポーター遺伝子型との関連が見つかっています。このように、レジリエンスは単なる心理学的な研究対象であることを超えて、様々な分野をまたいで包括的に検討され始めているのです。

このような中、活発な議論の対象はより深い方へ進んできています。つまり、レジリエンスが働くとは具体的にどういった仕組みによるものなのかという、心理的・生理的メカニズムに関する研究が注目され始めているのです。

レジリエンスが高い人と低い人の間ではどのような仕組みの違いがあるのか、回復するスピードが人によって違うのはなぜか、何をすればレジリエンスを高めることができるのかといったことは、メカニズムが不明なままではいつまでも分かりません。

こうしたレジリエンスシステムを動かす仕組みを考えるヒントの一つとして、最近では人間の「注意」という機能がクローズアップされています。注意とは、私たちが接する情報を実際に取り入れるかどうかを決定する重要な働きを担っており、どの程度の情報をいっぺんに処理できるかといった、心の容量をコントロールする機能に当たるものです。

研究者たちは、まずは心理実験によって人間の注意機能とレジリエンスとの関係性を調べています。例えば、レジリエンスが高い人は笑顔と怒り顔とを同時に見たときに笑顔の方に注意を向けやすいということがわかりました (Toern et al., 2016)。

また別の研究では、レジリエンスが高い人はより広い範囲に注意を向けることができることも示されました (Grol & De Raedt, 2014; 井隼・河原、2015)。こうした研究の積み重ねから、徐々にレジリエンスの認知的基盤についてこれから解明されていくことでしょう。

レジリエンスを高めるために必要なこと

どうすれば、レジリエンスを高めることができるのでしょうか?まず、上記の研究から注意のコントロールがうまくできれば、自然とレジリエンスも高めていくことができることが予想できます。

その具体的な方法の一つに、マインドフルネス瞑想のようなメンタルトレーニングを挙げることができます (Pidgeon et al., 2014;Teasdale et al., 1995)。もちろん、失敗やストレスの原因を探り、再チャレンジのために動いてみるのも一つの手です。

さらに、積極的に好きなことや気晴らしをして嫌なことから一端離れてみるのも良いのではないでしょうか。友達と一緒に遊びに行くということでもずいぶん気分は変わるはずです。

また、ストレスを減らすという観点からですが、気持ちの良いものを触ることをおすすめします。ぬいぐるみや良い感触のもの、また、他人に触れてもらうだけでも私たちは不安やストレスを減らすことができるようです (Koole et al., 2013; Sumioka et al., 2013; Levav & Argo, 2010)。

また、テディベアを触ることでポジティブな感情が喚起されるといった研究もあります (Tai et al., 2011)。接触の心地よさはレジリエンスを活かすために役に立ってくれる方法の一つではないでしょうか。

レジリエンスについてはまだまだ未知の部分も多く、これから様々なことが明らかになってくるでしょう。そして様々なことが明らかになれば、レジリエンスを高めるための効果的な方法も、様々なものが提案できるようになるでしょう。

例えば神経科学や臨床遺伝学からは、レジリエンスを高めるために脳刺激を行ったり、遺伝子治療を行ったりする方法が確立されるかもしれません。心理学からは、テレビゲームのような日常的な活動によって知らず知らずのうちにレジリエンスを高めるというような方法も提案できるかもしれません。

最後に

心の負担から立ち直る力が備われば私たちは人生を幸福に過ごすことができると信じて、研究者たちは少しずつ研究を進めています。皆様の幸せに繋がるようなことが明らかにできれば、それは研究者にとっても幸せなことです。レジリエンスは、みんなを幸せにするものであると信じています。

引用文献


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Greenwald, A. G., & Banaji, M. R. (1995). Implicit social cognition: Attitudes, self-esteem, and stereotypes. Psychological Review, 102, 4-27.

Grol, M., & De Raedt, R. (2015). The influence of psychological resilience on the relation between automatic stimulus evaluation and attentional breadth for surprised faces. Cognition and Emotion, 29, 146-157.

平野真理 (2010).レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み―二次元レジリエンス要因尺度 (BRS) の作成― パーソナリティ研究, 19、94-106.

井隼経子・中村知靖 (2008). 資源の認知と活用を考慮したレジリエンスの4側面を測定する4つの尺度 パーソナリティ研究, 17, 39-49.

Ihaya, K., Yamada, Y., Kawabe, T., & Nakamura, T. (2010). Implicit processing of environmental resources in psychological resilience. Psychologia, 53, 102-113.

井隼経子・河原純一郎 (2015). 選択的注意とレジリエンス. 日本心理学会第79回大会発表論文集CD-ROM.

石毛 みどり・無藤 隆 (2006). 中学生のレジリエンスとパーソナリティとの関連 パーソナリティ研究, 14, 266-280.

Koole, S. L., Sin, M. T. A., & Schneider, I. K. (2013). Embodied terror management interpersonal touch alleviates existential concerns among individuals with low self-esteem. Psychological science, 0956797613483478.

Levav, J., & Argo, J. J. (2010). Physical contact and financial risk taking. Psychological Science, 21, 804–810.

Luthar, S. S., Cicchetti, D., & Becker, B. (2000). The construct of resilience: A critical evaluation and guidelines for future work. Child Development, 71, 543-562.

Masten, A. S., Best, K. M., & Garmezy, N. (1990). Resilience and development: Contributions from the study of children who overcome adversity. Development and Psychopathology, 2, 425-444.

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Pidgeon, A.M., Pidgeon, L.W., Read, A-R., & Klaassen, F. (2015). Preliminary outcomes of feasibility and efficacy of brief resilience stress training: A pilot study of the MARST program. European Scientific Journal, May 2015, Special Edition, 2, 211-221.

Sumioka, H., Nakae, A., Kanai, R., & Ishiguro, H. (2013). Huggable communication medium decreases cortisol levels. Scientific reports, 3. doi:10.1038/srep03034.

Tai, K., Zheng, X., & Narayanan, J. (2011). Touching a teddy bear mitigates negative effects of social exclusion to increase prosocial behavior. Social Psychological and Personality Science, 2, 618-626.

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Thoern, H.A., Grueschow, M., Ehlert, U., Ruff, C.C., & Kleim, B. (2016). Attentional Bias towards Positive Emotion Predicts Stress Resilience. PLoS ONE 11: e0148368. doi:10.1371/journal.pone.0148368.

van der Werff, S.J.A., van den Berg, S.M., Pannekoek, J.N., Elzinga, B.M., van der Wee, N.J. (2013). Neuroimaging resilience to stress: a review. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 7:39. doi: 10.3389/fnbeh.2013.00039.

Wagnild, G., & Young, H. M. (1990). Resilience Among Older Women. Journal of Nursing Scholarship, 22, 252-255.

Wagnild, G. M., & Young, H. M. (1993). Development and psychometric evaluation of the resilience scale. Journal of Nursing Measurement, 1, 165-178.

Werner, E. E., & Smith, R. S. (1992). Overcoming the odds: High risk children from birth to adulthood. Ithaca, NY: Cornell University Press.

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