「当たり前」ではない、女性が持つ7つの力をどう活かすか|NPO法人ミラツク代表 西村勇哉

ーーNPO法人ミラツクでは、「女性が本来持つ力が生きる社会づくり」をひとつのテーマとして注目しておられます。「女性が本来持つ力」への注目は、どんなところから生まれてきたんでしょうか。


「女性活躍」ということばが頻繁に使われますが、その意味しているところは「管理職の女性比率を増やす」とか、表面的な施策が多いです。男性的なスタイルに沿ったマネジメントスタイルを前提に、役職をあげようとしています。

「なぜ増えない?」という観点が抜けている中で「とにかく増やそう」という話が多くて。女性の視点に立った評価軸やマネジメント軸をつくれないか、もしくは力を発揮するとか活躍するという定義を新しくできないかな、という問題意識が背景にあります。

ミラツクでは、様々なプロジェクトに取り組んでいますが、震災復興以降、気仙沼や陸前高田などで、現地で活動するプレイヤー同士の交流をはかっていくような取り組みを進めたことがあります。

若い起業家のサポートも進めたのですが、3年経ってひと段落したところで、一度振り返るためにゼロベースでリサーチを行い、その中で「災害後の復興に女性の力が活きている」という興味深いレポートを目にしました。もう少し調べてみると、国連のシンポジウムの中でも「紛争後の平和構築にも女性の力が活きている」という発信があることに気づいたんです。

「女性の力が活きる」っておもしろいなぁ、と思ったんですよね。危機的な場面では普段抑えられている力があるのかな、という気がしたんです。調べ方としては、実践者の行動を分析して、カテゴライズする方法をとりました。15人くらいの女性起業家や、活躍している女性が多い会社のマネジャーに、ヒアリングをしてみました。

実際、企業の中にいる人も女性活躍の方向性には疑問を持っているんですよね。このヒアリングをヒントにしながら、企業の中において、女性の力を活かすという観点から、調査を進めてみたんです。

ーー社会で活躍する女性へのヒアリングをもとに、女性が特に強みを持つ力の全体像がが浮かび上がってきたんですね。それはどんな力だったんでしょうか。


「とりあえずやってみる力」「みんなでやる力」「協力を得る力」「足下を大切にする力」「人を育てる力」「場をやわらかくする力」「感覚を大切にする力」の7つです。このバランスが、女性の強みになっていることが多い、ということが、ヒアリングと分析でわかってきました。確かに感覚的には「こういうのは女性のほうが得意だよなぁ」と納得できるところではありますよね。でも、この組み合わせが女性の強みである、というのはあまり意識されていなかったことでもあると思います。

ーー「場」「人」「足下」というのが重要なキーワードになりそうですね。確かに、身近な女性リーダーを思い浮かべると、大きな未来に向かって強いリーダーシップで率いるよりも、足下の関係性や手応えを大切にしながら進む方が多いように思えます。調査の中で意外な気づきなどはありましたか?


今回、7つの力に入れなかったのですが、一番面白かったのは、「育児によって養われる力がある」ということですね。育児というのは、キャリアの中においてはブランクである、というのが今までの考え方でした。でも実際には、育児をすることによって、調整する力や、限られた時間の中で対応する力、並行して作業を進める力が育っているんです。

育児を5年間やった人には、こういう力が育っているということがわかったんですよね。育児は「トレーニング」とも捉えることができるんです。あまり育児をしたがらない人って、時間がもったにないとか、自分のためにならない、という考え方をすることがありますが、そうではなくて、会社で求められるけれども学びにくい力を学ぶ機会であるとも捉えられます。

ただ、育児は女性に限らず男性も行うものなので、今回の「女性本来の力」という趣旨からはカテゴリー外とし、外しています。

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ーーこういった力は男性・女性関係なく、持っている人は持っている、という考え方もできますが、あえて「女性の力」とした意図はどういうところにあるんでしょうか。


もちろん個人差もあるし、0か100かではなくグラデーションで、男性も女性も持っているんですが、位置づけとしては「女性に強く現れやすい」という強みです。これは、強み発見ツールです。普段は強みとも認められないようなことだとしても、強みであるということを認識することで、自信につながることがあります。

今の社会的な環境では、女性の強みを「強み」として認めないところがある一方、男性が持ちやすい力について女性が「弱みだ」と思って、弱いところを伸ばしましょう、というやり方になってしまうことが多い。得意じゃないことをやらせていると、ほとんどの人はその過程で疲れてしまいます。

自分は「弱みを持っている」と捉えて弱みを克服しようとがんばるのでなく「違う強みを持っている」と捉えて強いところに特化して、弱いところは任せて、チーム全体で力を発揮できるようになる、というのが大切なんじゃないかな、と思いますね。

今は、主語のない「強み」は「男性の」価値が基準になっていることが多いので、その主語をあえて明確にする意図があります。逆に、男性が苦手なこともあるわけですから。逆にそれを男性にがんばれというのはまた無理が生まれます。誰が何に強いのか、というのを示しておけるといいですね。

ーー確かに、一般的に男性のほうが得意なことについて、男性と比べて「どうして自分はできないんだろう、無能だ」と思ってしまうと苦しいですよね。


主婦の労働時間と単価で、労働価値として換算すると、実際ものすごい金額・ものすごい生産量になるんです。でも今の世の中ではカウントしていないですよね。市場経済の中で働くほうが生産性がある、と捉えられている。家庭での仕事は、当たり前にやっているけれども当たり前じゃないんです。家族における生産力は、ちゃんとカウントすれば数字になるはずです。そういう「見えてないけれども価値を生んでいるもの」を、きちんと可視化していくことが大切だと思います。

ーーこれをもとに、どんな取り組みに発展させていきたいと思っておられますか?


この女性の力をベースにすると、どんなことが得意なのか、どんな条件で活きるのか、というのを明らかにしていきたいと、研究を継続しています。◯◯の力を持っている人がチームにいると、なるほどすごくアイディアが出るね、とか、チームが安定するね、とか。

例えば現在は京都大学と共同で、ソーシャル・キャピタルとイノベーションの関係を研究しています。ソーシャル・キャピタルの強さに、女性の力が関係しているような感じはしていますが、実際にはどういう条件が整えばイノベーションにつながるのか、という点が重要です。ソーシャル・キャピタルが高ければ良いというわけではなく、高いだけだとべったりした関係になってしまう。

共同研究からも、ソーシャル・キャピタルと自立性が両立したときにイノベーションが生まれやすい、といったことが見えてきました。女性の力が活きる場面設定、というのを明確にしていきたいですね。

もうひとつは、それを可視化していく取り組みですね。さっきも言ったように、「実際には価値を生み出しているのに、お金という共通指標で評価しづらい」ようなことを、別の評価軸で評価していくような考え方が必要だと思います。誰かにとっての指標、という考え方も大切です。例えば地域の中での活動は評価されづらいけれど、地域の子どもの幸福度を上げているんだ、とか、なるほどお金はかかるけど犯罪率を下げているんだ、とか。

ーーお金という指標だけではなく、複数の指標でその評価がなされるべきだ、ということですね。


一対一の因果関係の思考で考えるから、短期的な原因と結果の関係性にしか目が向かなくなってしまいます。一対一だとそれほど相関性が高くないけれど、この要素を組み合わせるとどうだろう、といった多変量の考え方が大事です。

オープン・イノベーションにしても、CSV (Creating Shared Value) にしても、別の価値を取り込んでいくことは重要です。感覚値でいくと、マーケティング担当者には女性の比率が高いと思うのですが、これって、外部との交流や、価値を取り込んでいくことが上手なんじゃないかなぁ、と思うんですよね。

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ーー男性とは違う「女性の」働き方を考えるうえでは、どんなことを意識したら良いのでしょうか。


今、男性スタイルのマネジメントでマネージャーになった女性を見ながら「こうはなりたくない」という女性が多いんです。将来像を見失ってしまうんですね。そうすると、新しいロールモデルが欲しいという話になりますが、それぞれの力を活かした自分なりの方法でスタイルを確立してきた人は、ロールモデルを追いかけていたわけではなく、自分はどうしたいか、自分は誰のために仕事をしたいのか、自分なりに考えて、スタイルを確立して、そこに辿り着いているんです。

多くの人は「モデルが必要」「モデルがいない」「自分らしくあらねば」という中で、フリーズしてしまいます。自分らしさってなんだっけ、となったときに、自分らしさを見つける方法論とか、女性の力が引き出されるような状況づくりは大切ですね。今行っている調査では、「自分が何をしたいか」だけではなく「社会や地域に対して何をしたいのか」という考え方に切り替えることで、見えてくるものもあるという話も伺っています。

ーー「自分の適性」「自分のやりたいこと」にとらわれていると見えてこないものがあるということですね。最近は積極的に社会や地域のために新しいチャレンジをする人が増えている印象がありますね。


世の中、いろんな「大変なこと」があって、とにかくいっぱい大変で、一個や二個変えても、大変なことは起こり続けます。そして、常に大変というのは理解されつつあると思います。インターネットがない時代は目の前しか見えていなかったものが、インターネットが本格的に普及し始めて25年、大きく変化して、世の中の大変さは理解されつつあります。

その結果「みんなでいろいろ考えよう」という10年前は存在しなかった動きが加速しています。「関係者」の範囲が劇的に広がっているんです。自分と関わりのないセクターの人と積極的に関わるようになったのはこの5年くらいですね。距離を超えて、国を超えて、地域にとっていい取り組みをやって、面白い取り組みができる人が一気に増えています。次の10年でさらに変化するでしょうね。

たとえばコワーキングスペースにしても、空き家を使ったコミュニティ再生にしても、5年前になかったことが今はたくさんありますね。大学教育の中でも、デザイン思考や、アイディアをつくりながら実践しようという試みが当たり前になっています。外部の人が訪れて、現場を体験するような機会もたくさんあります。ソーシャル・イノベーションが、いろんな場所で起きて、広がっていっていますよね。

ーーそのようなソーシャル・イノベーションの場では、どんな風に「女性の力」が活かせそうでしょうか。


日本政策投資銀行の女性起業家の授賞式なんかにいくと、ほとんどがソーシャルビジネスなんです。別にソーシャルビジネスのコンペではないのに、明らかにソーシャルが多くて、「やりたいことをビジネスにしたら、そうなりました」という。これってすごいことです。女性って、放っておいても社会性を組み込んでいくことができるんですよ。

男性はどちらかといえば空中戦みたいなビジネスモデルを構想しがちです。今は「足下を大事にする」とか「ひとりではなくみんなでやる」というソーシャル・イノベーションが社会の中で起こっているわけですが、そういうありかたを自然につくっていけるのが女性なんじゃないかと思います。そういう人に「なんでそんなことできるの?」と聞くと「当たり前でしょ」と返ってくる。それが当たり前ではなくて、価値があるものなんだというのを自覚できるように、変わっていくといいですよね。

ーーありがとうございました。興味を持たれた方はぜひ「女性の力が活きるワークスタイル診断」を受けて、自分の強みに気がついて頂けたらと思います。


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