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性暴力のトラウマを持った方も、本来の力を発揮できるように伴走したい|臨床心理士 熊谷 珠美

更新日 2017年02月16日 |
カテゴリ: 専門家インタビュー
性暴力のトラウマを持った方も、本来の力を発揮できるように伴走したい|臨床心理士 熊谷 珠美

性暴力など人から傷つけられた心のトラウマへのカウンセリング

ーー熊谷先生のカウンセリングルームは主にどんな相談を受けておられるのでしょうか。


このカウンセリングルームをはじめたときから特に大切にしているのは、対人トラウマについてのカウンセリングです。トラウマの中でも人との関係の中で傷つきを負ったものを「対人トラウマ」と呼ぶことがありますが、例えば性暴力やDV(ドメスティック・バイオレンス)やハラスメントなどもそれに含まれます。そのような被害を受けた方に、少しでも安心を提供できる場をつくっていきたいと願っています。

特に、なかなか身近な人にも話しづらい性暴力や性虐待、セクシュアリティに関する嫌がらせなど、性にまつわる傷つきの体験については、最近のことでも、過去の忘れられないことについても、ここでは少しでも安心して話して頂ければと思っています。もちろん、暴力被害に限らず、親子関係や職場など、様々なかたちで人との関係で傷付いて、生きづらさを感じておられる方にお越し頂きたいと思っています。

HEARTカウンセリングセンターの「HEART」ですが、これは「Healing Empowerment and Recovery from Trauma」の略でもあります。もともと私達一人ひとりが回復する力を持っていますので、そのしなやかな強さを引き出して発揮していただけるようにお手伝いできれば、という思いを込めています。そして暴力による心の傷が生まれないような社会になっていけるように、HEARTカウンセリングセンターでも少しできることをしていきたいと考えています。

ーートラウマというのは、どういうことを言うのでしょうか。


トラウマというのは、過去に起こったことであるにもかかわらず、今現在にも影響を及ぼしている心の傷つきです。頭ではもう大丈夫と思っていても、体は緊急事態だと思い込んでしまっているのです。苦しかったときと似たような人影を見たり、似たような状況になったら寝付けなくなるとか、体が強張るとか、体の反応が残っていることが多いです。

どんなに安全な場所にいても、「安全じゃない」というメッセージを受け取ってしまうのがトラウマです。心も身体も「自分を守らなくちゃ」、となって“緊急モード”に入っていきます。その感覚が出来事が終わったあとにもずっと続いてしまって、「安全じゃない」という感覚が人や自分を信頼することを邪魔してしまったり、心のエネルギーを消耗するので疲弊してしまったり、幸せに生きていこうとする上で足かせになってしまいます。性的な傷つきを受けると、人をどう信用していいかわからなくなったり、その結果、誰とも関われなくなって孤立してしまうことも起こりやすいのです。

PTSDになりやすい性暴力の体験

ーー確かに、レイプやDVは、周りの人にも相談しづらいですね。


トラウマを引き起こすきっかけになる出来事の中でも、レイプは一番PTSDの発症率が高いと言われています。たとえば災害の場合は、同じ地域の人たちがほぼ同じ体験をしていることが多く、ほとんどの人が一時的にPTSDのような症状を体験されることもありますが、本格的なPTSDになる前に状態が改善していくことが多いそうです。

もちろん、個々の状況によって異なるので、被害の重さ比べをしているわけではありませんが、性暴力の場合は、恥の意識や、語ってはいけないという空気や、タブー視されていることもあり、なかなか身近な人にも共有できません。言うことも、聞くことも難しい出来事であるため、言う場所がなかった、誰にも聞いてもらえなかったからと、一人で抱えていらっしゃる方はとても多く、その結果PTSDの症状が長引いて慢性化してしまうことも多いようです。

トラウマやつらかった経験から回復していくうえでは「安心・安全を感じられること」「落ち着くこと」「人とのつながり」が非常に大切です。その感覚が奪われやすいのが性にまつわる暴力なのだと思います。特に人間が持っている自然に回復する力をそいでしまいやすいのが孤独です。性暴力は、世界を安全でない場所に一瞬にして変え、安心して落ち着く力を奪い、人を信じる心を曇らせて被害を受けた人を孤独に陥らせてしまいます。少しでもそういった一人ぼっちの当事者を減らしていければと願っています。

ひとりで抱えることができているということ自体、立派な強さを持っているといえます。その強さや力を支えたり、さらに増やしていくお手伝いができればと思っています。

HEARTカウセリングセンターでは、被害体験を無理にお話いただくことはありません。語らなくてはいけないのではと思っている人は多いのですが、私たちは語れない思いも含めて大切にしていきたいと思っています。性のことや子供時代に受けた被害は覚えていなかったりすることもよくあって、記憶を取り戻せなかったらダメなのではと不安になるかたもいらっしゃいますが、頭で思い出せる記憶がなかったとしても、身体が覚えている記憶を扱うなど、トラウマを癒やしていく作業は色々なものがありますから、ぜひ心配しすぎずにお越し頂きたいと思います。

頭・心・身体への総合的なアプローチ

ーーカウンセリングではどんな風にトラウマを扱っていくのでしょうか。


こちらのカウンセリングでは、一人ひとりが持っている回復力の妨げになっている足かせをとる作業を行うようなイメージが伝わりやすいです。それには、頭で考えていることだけでなく、感情や身体感覚にも残っている記憶も含め、総合的に「過去に起こったことを過去にしまっていく」というステップをお手伝いしています。

そうすることで、過去に縛られるのではなく、本来の自分を生きていく力を取り戻していけるように応援させていただいています。自分を信じられるようになったり、人を信じられるようになったり、視野が広まったり、小さなことにも幸せを感じられるようになったり、本来の自分を生きていく力を取り戻すことができるようになったとおっしゃられる方もいらっしゃいます。

トラウマというものは、自分が本当に持っている力を見えなくしてしまいますので、常に無力で疲弊した感覚にとらわれてしまうこともあります。「あなたはここまで生き抜くことができたすごい力をちゃんと持っていらっしゃいますよ」、「傷付いた体験をさらに力に変えて生きていっていいのですよ」、「心のエネルギーを幸せを感じて生きていくことにむけていいのですよ」、とお伝えしたいです。

ーーどんなアプローチでカウンセリングをしておられますか?


HEARTカウンセリングセンターには脳神経科学の知見も取り入れているソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing®)などの身体性を大切にするトラウマ療法のトレーニングを受けているカウンセラーがいます。身体も含めたアプローチはとても有効だと感じています。「考えている頭」と「感じている心」それから「身体」はすべてわたしたちの一部で、全部つながっている。語るということは、頭で語っているということですが、どんなに語っても、心は怖がっていたり、身体は緊張していたり、別のところが反応していることがあります。

「頭だけ」とか「心だけ」ではなく、「身体の記憶」というのがあります。トラウマになる出来事は、深い原始的な脳の部位も影響を与えるため、身体的な感覚や反応としてトラウマの記憶が残ることがあります。トラウマを癒やすということは、「身体の記憶」も扱わないといけないということです。

また、無理に出来事を言葉にしなくても大丈夫です。身体の記憶は感覚を通して刻まれているので、言葉にできないことが多く、むしろ語らなくても大丈夫なのです。特に、性暴力の出来事は語ることも強い苦痛をもたらすことがありますので、言葉にすることがまだ難しい人には、語らなくても変化を起こしていけるソマティック・エクスペリエンスなどお勧めしています。もちろん、人によって、考えるのが得意な人や感じる人が得意な人、いろいろですから、そこはその人に合わせてアプローチしています。その場合も、頭、心、身体のつながりというのを、大切にしています。

カウンセリングには本当にたくさんの方法論があって、回復という同じ頂点に向かうにしても、登る山道は様々なものがあるといえます。例えば、お話をするカウンセリングでうまくいかな方にも、ソマティック(身体的な)アプローチはおすすめできます。トラウマに関しては心の準備ができていないと再びトラウマを与えてしまうことになってしまう場合がありますから、わたしたちは少しでも安全・安心なやり方で、無理せず、穏やかな道を選んで過去に取り組んでいくようにしています。

ストレスを生むのは環境の変化ですが、人間はその変化に適応していく力を元々持っています。強いストレスを受けすぎてトラウマになったとしても、もともと回復する力はすべての人に備わっています。カウンセラーは相談にいらした方に力を授けるわけでも、魔法のように解決するわけでもなく、「本来の力を引き出すお手伝いをする伴走者」に過ぎません。

相談に来ても、「話さなくてもいい」

ーートラウマを持っていても、こういった場で相談できる人と相談できない人がいますね。


ひどいことが起こってしまうと、私達の心と身体は賢いので、起こったことを「否認」することで心を守ろうとすることがあります。苦しさと向き合いたくない、忘れたい、なかったことにしてとにかく前に進んでいきたいというのは実際理にかなっているし、自然な反応です。人によって、起こったことに向き合ってちゃんと過去にしまう作業ができるタイミングは異なりますから、まだ相談に来るタイミングでないかたもいらっしゃいます。また向き合わなければいけないということではないので、過去にしまう作業はしないでおこうと選択することももちろんありです。いつ、どんなふうに、どのくらい癒しの作業を進めるかは、一人ひとりが自由に選んでいいものだと思います。

相談に来ると、話すのが辛いからとか、思い出すのが辛いから来られないという方もいます。もちろんカウンセリングを受けなければいけないということではないですが、でも疲れてしんどくなったら、無理に話したり、思い出したりしなくてもトラウマを癒していけるような場所がありますよ、と選択肢の一つを提案できればということです。

HEARTカウセリングセンターでは、必ずしも被害体験を話さなくてもいいんです。無理に話させることはありません。語らなきゃいけないって思っている人は多いのですが、私たちは語れない思いも含めて大切にしています。性のことや子供時代に受けた被害は覚えていなかったりすることもよくあって、それでも大丈夫です。トラウマを癒やしていく作業は色々なものがありますから、ぜひ怖がりすぎずにお越し頂きたいと思います。

ーートラウマの問題で医療にかかる人もいると思います。どのように使い分けたら良いのでしょうか?


トラウマによって身体や心に負担がかかって、眠れなくなってしまったとか、落ち込んで仕事に行くのが辛いとか、症状が出て生活に支障があるときには医療にかかることをお勧めすることもあります。薬を飲んで症状をやわらげると楽になりますし、そうしてトラウマに向き合う力が戻ってきてから、トラウマを扱う心理療法を受けるのが良いのではないでしょうか。薬は対処療法かもしれませんが、根底にある傷つきをしっかり扱って解消してみたいと思われる場合はトラウマ療法を選ばれると良いと思います。両方上手に使っていくのが良いのではないでしょうか。

トラウマに有効な身体的アプローチ

ーー頭と心だけでなく身体から、というアプローチにはとても納得感があります。身体へのアプローチは、特にトラウマに有効な方法なのでしょうか。 


いろんなトラウマ療法を学んできましたが、トラウマによってネガティブになってしまった考え方を修正したり、感情を感じたり解放するだけでなく、身体で起こっていることを扱うことはトラウマにとても有効ですし、むしろ必要だと思っています。身体って実はとてもよくできているんです。危険な状況に陥ったとき、自動的に、戦うか逃げるか、どちらもできないときには「固まる」ようになっています。

どれも最大限、生存する確率を上げてくれる反応です。「固まる」という反応も実は非常に賢い反応です。固まって抵抗しないことは状況を悪化させないようにする試みでもありますし、固まっていると痛みも感じづらくなる。どちらも本能が自分を守ろうと最大限やってくれている証です。固まってしまうのは、生存本能の反応で、意思で選択しているわけではありません。それなのに「なんで逃げられなかったんだろう」「なんで叫ばなかったんだろう」と、私たちは頭で考えて苦しくなってしまう。人間は脳が発達しすぎて考えすぎてしまいやすく、結果的に本来もっているトラウマからの自然な回復力を妨げてしまいます。賢すぎるのも大変です。

トラウマを援助するひとたちも一緒に、いい循環をつくっていきたい

ーートラウマという状態が、いかに生き物としての人間と結びついているか、ということが理解できたような気がします。だからこそ、身体からのアプローチが効果的なんですね。そのようなアプローチでカウンセリングを提供する専門家は増えているのでしょうか。


ソマティック(身体的)アプローチ自体は日本でも増えてきています。ただ、心理専門家の中でも、性の問題について十分にトレーニングを受けている人は少ないのが現状です。このカウンセリングルームでは性被害などのトラウマについても丁寧かつ適切に対応出来るカウンセラーがいます。また、HEARTでは、当事者の支援はもちろんですが、当事者が安心して相談できる支援者の仲間も増やしていければと思っています。専門職の方は助けを求めるのが苦手な人もいて、ねぎらわれる機会がないことも多いと思います。HEARTカウンセリングセンターでは、当然ながら当事者にも伴走したいし、援助者の方々も応援したい、かつそれを行っている私たちも疲弊しないように、みんな大事でみんながお互いを助け合うという良い循環をつくっていければと願っています。

すでに支援をする側の人達への活動として、仲間同士で行うピア・スーパービジョンを実施しています。これは、解決志向のアプローチで、(ソリューション・フォーカス・リフレクティングチーム)といい、略してSFRチームと呼んだりしていますが、自分が労われたり、気付きを得たり、一緒に考えてもらえるようなスーパービジョンの場です。そのような活動を通して、ぜひ支援者の仲間とも出会っていきたいです。現在、HEARTはスタッフ約4人でやっていますが、この分野の支援に関心のある支援者の方々とつながり、学びあい、より多くの方により良い役立つ援助を届けていければと考えています。

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