更新日 2024年08月25日 | カテゴリ: 専門家インタビュー
子どもたちの問題状況を、毎年文部科学省が教育委員会から調査・収集している公的調査データから概観してみましょう。文部科学省が公表した平成26年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によると、いじめの認知(発生)件数は、約18万8千件です。学校種別では、小学校が約12万3千件と最多です。不登校は、小・中学校で約2万3千人、 高等学校で約5万3千人、合計すると約17万6千件です。小・中・高等学校における暴力行為の発生件数は、約5万4千件です。高校中退者数は、約5万3千件です。小・中・高等学校から報告のあった自殺は、230人です。そのうち約74%は、高校生です。
国は子どもたちの問題解決の方法として、平成7年度から臨床心理系のスクールカウンセラーを、平成20年度から社会福祉系のスクールソーシャルワーカーを導入しました。しかし、客観的な公的調査データからすれば、いじめの認知件数は、平成7年度の約3倍の増加、平成20年度の約2倍の増加です。多大な教育投資に対する問題事象の低減効果や抑止効果は、低いといわざるをえません。これは何を意味するかというと、特別なニーズをもつ特定の子どもの課題解決だけでは、子どもたちのメンタルヘルス、学習、生活上の安心・安全を阻害する諸課題の抜本的解決にはほど遠いということです。言葉を換えると、問題が起きてから対応するという事後対応的なカウンセリングの制度的な限界と見直しが迫られているということです。
スクールカウンセリングには、リアクティブ型カウンセリングとプロアクティブ型カウンセリングがあります。前者は、不定期な遅刻・早退・欠席が目立ちはじめる、不登校やいじめの初期段階など学校の内外で苦戦し始めた一部の子どもを対象に、問題の早期解決を図る。あるいは、いじめ・暴力行為・不登校・非行など、深刻な問題を抱えた特定の子どもを対象に問題解決を図る。いずれも問題行動に対する事後対応的カウンセリングです。これは、「治す」(リアクティブ型)カウンセリングといえます。
それに対して、後者はすべての子どもを対象として、問題行動の予防を目的とした予防教育を計画的に実施する。あるいは、個性の発見や自尊感情・自己肯定感・キャリア意識・社会的スキルの伸長など、子どもの成長促進や予防に力点を置いたカウンセリングや教育プログラムを計画的に実施する。いずれも、先を見越した成長促進的・予防的カウンセリングです。これは、「育てる」(プロアクティブ型)カウンセリングといえます。
日本型スクールカウンセリングでは、スクールカウンセラーはいじめの深刻化や不登校児童生徒の増加に歯止めをかけ減少させる「心の専門家」という位置づけで、週1回8時間を標準とする非常勤の外部専門家として導入されました。スクールソーシャルワーカーは、学校での福祉的な援助サービスを提供する非常勤の外部専門家として導入されました。両者とも、対象は学校で苦戦している特定の子どもがほととんです。また、臨床心理的アプローチか社会福祉的アプローチの手法の違いはありますが、日本型スクールカウンセリングの特色は、リアクティブ型カウンセリングが主であるということです。
先ほど、断りをいれずに「日本型スクールカウンセリング」と申し上げました。なぜ、日本型かというと、スクールカウンセリングについては、日本の場合、スクールカウンセラーは臨床心理士有資格者が8割以上であるため、スクールカウンセリングは、心に何かしらの課題を抱えた特定の子どもに対して、個別カウンセリングや心理療法を用いて解決を図る援助であるというように限定的にとらえられる傾向があります。
その傾向性は、たとえばスクールカウンセリングの先進国で長い歴史をもつアメリカも同様かというと、そうではありません。アメリカスクールカウンセラー協会(ASCA)では、スクールカウンセリングを次のように特徴づけています。「範囲において総合的であり、意図において予防的であり、性質において開発的(発達的)である。」(ASCA:米国スクール・カウンセラー協会、中野良顯訳『スクール・カウンセリングの国家モデル─米国の能力開発型プログラムの枠組み』学文社、2004年、P.17)
アメリカの場合、スクールカウンセラーは常勤職として、教師との役割分担や業務内容が明確です。それに対して、日本のスクールカウンセラーは、非常勤職員として、厳しい時間的制約の下で活動するため、どうしても制度的圧力によってリアクティブ型カウンセリングにならざるをえないという状況です。いじめが起きてから対応する、不登校になってから対応するというより、いじめが起きないようにする、不登校にならないように未然防止することが大切なことは、スクールカウンセラーも承知していることです。
現状の学校で必要なことは、リアクティブ型カウンセリングとプロアクティブ型カウンセリングのバランスのとれたスクールカウンセリングの構築です。昨年、中央教育審議会の「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(中間まとめ)が公表されました。いわゆるチーム学校という構想において、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを法的に位置づけて、子どもたちの問題解決などを専門的に担う仕組みが提案されています。これによって、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの常勤化への道も開かれそうです。
教師は授業を主体とする教育活動を、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーは、子どもたちの成長促進や問題解決などのスクールカウンセリングを担うというように、両者の専業化・分業化が確立していくとバランスのとれたスクールカウンセリング体制が整っていくことが予想されます。また、専業化という点では、国家資格としての公認心理師が採用されていくようにも思われます。その意味では、日本のスクールカウンセリングは大きな転換点にさしかかっていると思います。
プロアクティブ型カウンセリングの中核は、ガイダンスプログラムまたはガイダンスカリキュラムと呼ばれるものです。特徴は、子ども一人ひとりの自己理解・他者理解能力、学習意欲・態度・学習習慣、礼儀・規範意識・善悪の判断能力、協調性・共感性、役割遂行能力、人間関係調整力、意思決定能力、問題解決能力、情報探索・活用能力、コミュニケーション能力、将来設計能力などのコンピテンシー(育成したい能力)の育成を、授業や集団活動を通して意図的・計画的に行います。先駆的な実践としては、横浜市教育委員会による「子どもの社会的スキル横浜プログラム」があります。同様な実践をしている地域では、学校満足度や学力の向上、問題行動の減少などの教育効果をあげています。
学校ではスクールカウンセリングと同義的な教育活動として、生徒指導があります。文部科学省は、2010年に生徒の国家的な基本書となる『生徒指導提要』を刊行し、その中で「生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動」であると定義しています。生徒指導は、問題行動対応や非行対応に限定されておらず、むしろ、「個性」・「社会的資質」(社会性)・「行動力」のキーワードに象徴されるように、子ども一人ひとりの健全な成長や発達を目指す人間教育そのものです。その意味においても、プロアクティブ型カウンセリングの充実が必要であり、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの重要な業務となるでしょう。今後のスクールカウンセリングは、生徒指導に資するものに変容していくと期待しています。
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