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根本的な「生きづらさ」と向き合うスキーマ療法|臨床心理士 伊藤絵美

公開日 2016年09月26日 |
カテゴリ: 専門家インタビュー
根本的な「生きづらさ」と向き合うスキーマ療法|臨床心理士 伊藤絵美

数多くの心理療法の中でも「認知行動療法」は、うつ病や不安障害に対してもエビデンスのある心理療法として、医療の枠組みで保険点数化もされている信頼性のある心理療法です。今回お話を伺った伊藤先生は認知行動療法の領域における第一人者の一人で、近年は認知行動療法の発展型とも言える「スキーマ療法」について大きな可能性を感じていると言います。今回「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法」を執筆された伊藤先生に、スキーマ療法についてお話を伺いました。

前編:今、ここの感覚を取り戻すマインドフルネス|臨床心理士 伊藤絵美

問題の根本にある「スキーマ」に焦点を当てるスキーマ療法

認知行動療法は近年うつ病の治療法としてよく聞くようになりましたが、その発展形とも言えるスキーマ療法というのはどんな治療法なのでしょうか。


認知行動療法は、問題解決や症状回復のために確立されたアプローチで、今目の前にあるうつや不安という症状や今その人が抱えている対人関係上や生活上の具体的な問題を解決するツールとしてとても役に立ちます。

そして、目の前の具体的な問題を解決して十分、という人はいいのですが、より大きな観点から見た、生きづらさ・生き方・パーソナリティ、もともとその人の持っている特性といった課題を抱えている人にとっては、認知行動療法だと少し物足りないことがあります。

傷つきが大きくて、パーソナリティ全体に影響を与えている人にとっては、目の前の課題は氷山の一部に過ぎず、深いところでより大きな課題を抱えていることがあります。そこで、その問題や生きづらさを引き起こしている根本にある『スキーマ』に焦点を当ててやりましょう、というのがスキーマ療法です。

スキーマというのは、自動思考よりも深いレベルにある、自分や世界や他者に対する深い思いや価値観にもとづく認知のことです。私は、アメリカの心理学者のジェフリー・ヤング先生の本の翻訳を通じてこの心理療法と出会ったのですが、読んでみてびっくりしました。認知行動療法の到達点という感じがしましたし、スキーマ療法ではここまでのことができるんだ、と驚きました。

とても統合的な心理療法なんです。認知行動療法が中心にあることは確かなんですが、対象関係論とか力動的な考え方、感情焦点化療法、ゲシュタルト療法のような体験的な手法などを統合的に取り入れていて、生き方レベルで、過去から未来を見通すかたちで串刺しにした感じがしますし、整合性がとられています。単に『折衷』したわけではなく、モデルも議論も統合性と一貫性があります。

スキーマ療法は、誰でも受けることができる心理療法なのでしょうか。


『今、ここ』の感覚を取り戻すマインドフルネスに対して、スキーマ療法はその体験の背景にある自分自身の根っこの部分を理解して、自分を肯定していくプロセスです。

自分自身の傷つき体験を扱うので、自分が傷ついているということがわからないとだめなんですね。それを見られるような状態をつくるためにも、先に認知行動療法やマインドフルネスに取り組んでおくことに意味があります。マインドフルに、自分の傷つき体験、ポジティブな体験をひっくるめて棚卸しをして、自分の理解を深めておくのです。

また、スキーマ療法では、決められた治療の枠組みの中でクライエントの心を育てなおしていきます。治療的再養育法(Limited re-parenting)と言われるやり方です。健康な人は『良い養育者 (good parent)』のイメージが自分の中にあるわけですが、スキーマ療法では、セラピストがその役割を果たします。親子のような関係をつくるわけですから、セラピストとそれなりの関係性がないと実施が難しいんです。ですから、まずは認知行動療法で、症状や今燃え盛っている問題を扱うことから始めます。

スキーマに気づき、手放し、新しい体験に変えていく

自分自身の深いところ、根っこの部分に入り込んでいく前にまず「感覚を取り戻すこと」と「今ここの問題に対処できるようになること」が大事なんですね。スキーマ療法が始まると、具体的には、どんな風に治療が行われていくのでしょうか。


早期不適応的スキーマと呼ばれるスキーマには18種類ありますが、ひとつの例を挙げると『見捨てられ/不安定スキーマ』というのがあります。養育者(親)との関係性が不安定だった場合ー親が途中で変わった場合や捨てられた場合、いつ見捨てられるかわからないという不安ーがあると、「目の前にいるこの人はいつ自分を見捨てるかわからない」というスキーマが出来上がります。

これはその人にとっては、自分の考えという枠を超えた真実になっていて、『人は見捨てる存在である』『誰にも頼れない』というスキーマとして心を支配するようになります。スキーマ療法を通じて、自分の中にその記憶と、そこからつくられたスキーマが存在しているのであって、真実とは違うんだ、ということに気づくと、『どうやって手放そう』『どうやって新しいスキーマを身につけよう』という見方の転換ができるようになっていきます。

そのプロセスとして、例えば『モードワーク』を通じてイメージを書き換えていくようなことを行います。セラピストは、虐待をされていたクライエントを守る人として、過去の体験に一緒に潜りにいきます。そこで一緒に体験と向き合っていくと、体験の事実は変わらないんだけれど、その体験に付随する感情体験が変わっていくんです。

認知行動療法でも『エクスポージャー』といって過去の辛い体験に何度も触れて慣れていく方法がありますが、それよりも優しい方法ですね。これを何度かセラピストと一緒にやっていると、セラピストがいなくても自分をレスキューできるようになっていきます。この助けにいく自分を育てることが『ヘルシーアダルトモード』をつくるということです。

この「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法」は読者自分でも進められるように作られていますが、利用にあたっては、どんなことに気をつけておくべきでしょうか。


この本はある当事者の事例を通じてスキーマ療法をシミュレーションしているものです。これを自分でできるようにワークブックとして作ったのが、以前出版されている『 自分でできるスキーマ療法ワークブック Book 1/Book2』です。自分でやって、主治医や担当セラピストに報告するかたちで進められるといいですね。

伊藤絵美先生スキーマ療法ワークブック

ただ、スキーマ療法はしんどいんですよ。私自身がやっていても過去の体験を思い出して歩きながら泣いたり、怒りを感じたり。心が動くんです。健康な人がやるにはいいんですが、傷つきがある人は辛くなってしまう可能性があるので、しっかり相談できる人たちのことを思い浮かべておいたり、コーピング(ストレスを緩和する)方法を用意しておくようにして欲しいと思います。

スキーマ療法はとても強力な心理療法ですが、これを実施できるセラピストは本当に少ないのが現状です。まずは基本となる認知行動療法のセラピストがしっかりと育って、そこからセラピスト自身の体験・体感を通じてスキーマ療法を身につけていくセラピストが増えていくことを願っています。

病気かどうかは関係なく、「健康法」のように活用してほしい

この本はどんな方に読んで欲しい、と思われますか?


伊藤絵美先生新著2

以前にも『ケアする人も楽になる 認知行動療法入門 』という書籍を書いたのですが、今回はそれの続編と言える本です。認知行動療法は、セルフケアのツールなので、治療者も使えますし、当事者も使えます。ナース向けに書かれた本ですが、ケアする人というのは大きなストレスを抱えていることが多いですから、まずはナース自身の心のケアのためのツールとして、活用して頂きたいと思っています。

けれど、ケアする人に限らず、本当にみんなに読んでほしい本ですね。病気かどうかは関係なく、マインドフルネスも含めて、ひとつの心の健康法のように捉えて頂ければ良いと思います。

伊藤絵美先生認知行動療法

数多くの心理療法も、同じ心を扱っているという意味で、それほど違いはない

今月先生最近が上梓に関わっておられる別の書籍に「心理療法の交差点2」や精神分析の大家でもある藤山先生との対談本「認知行動療法と精神分析が出会ったら」などがあります。様々な心理療法が存在していることは、利用者にとっては心理療法のわかりづらさにもつながっているように感じられますが、実際に心理療法の「交差」の動きが見られるようになってきているということなのでしょうか。


もともと、認知行動療法の創始者であるベックは精神分析の出身ですし、様々な心理療法は同じ人の心を扱っているという意味で、そもそも言われるほど違いはないんじゃないないでしょうか。

認知行動療法は人の心を意識上の浅い領域で切っている、精神分析はより深い領域で切っている、スキーマ療法は深いところ、浅いところの両方で切って、つながりを見ていきます。表面的な体験にぶらさがっている、自分の過去や深いところにある思いも含めて、人生全体を見ていくイメージです。

深いところまで見に行く一方で、行き先や枠組みもかなり構造的に決められて、予測されています。 認知行動療法は浅いところを潜るシュノーケリング、スキーマ療法は安全装置をたくさんつくって深く潜るスキューバダイビング、精神分析はどこに行くか決めないしわからない潜水、というイメージですね。

数多い心理療法の中でも、「生きづらさ」の根本に向き合うスキーマ療法。まだまだ日本には実施できるセラピストが少ないのが現状で、伊藤先生のカウンセリングルームも数ヶ月待ちの状態のようです。まずは自分にできるところで、書籍を手にとって、自分の人生を支配している「スキーマ」について思いをめぐらせ、ワークに取り組むことから始めてみてはいかがでしょうか。

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