更新日 2024年08月21日 | カテゴリ: キャリア・人生・仕事の悩み
私は以前、職業訓練施設で心理相談員をしていたことがあります。そこには、キャリアコンサルタントの方は別にいらっしゃいましたので、私に求められていたことは、受講生のモチベーションを支えるというものでした。
手に職をつけるために、今までと違う分野に挑戦する方、もともと文系なので理系の分野についていくのが大変な方、始めはやる気をもって受講されたけれども、だんだん授業に出るのがつらくなるし、就職活動もしなければならないし、やることがいっぱいで混乱していらっしゃる方、そういった方々に対して、目的を達成するために、心理的な支援を行うというものでした。
実際に相談を受けていて感じたことは、今現在の大変さをお聞きするところから入るのですが、多くの場合、前職での失敗や嫌な思いが所々で蘇ってきてしまい、これから先、新しい仕事や会社でも、同じことを繰り返してしまうのではないか、という不安がよぎってしまうということです。
いくら言い聞かせても自然と出てきてしまうので、困ってしまうようです。例えば、自分にばかり大変な仕事が回ってきて、ミスも多くなり、叱られてばかりで、うつ状態になり、会社を辞めた方は、次のところでも同じ状況になるのではないかという不安から、再就職先の面接において、自信をもって答えることができず、新たな第一歩を踏み出すために、大変苦労をされていました。
実際には会社を辞めて、仕事自体は終わっているにもかかわらず、前の会社での働き方や人間関係を引きずっておられたために、気持ちが整理されずに「終われていない」状態にあったということです。
ですから、名実ともに「終わる」ことができるように、辛かったこと、悔しかったこと、腹が立ったこと、報われなかったこと、やりたかったけれどもできなかったこと等、語っていただきます。そんな中にも、嬉しかったこと、できていたこと、いい人との出会いもあったということも出てきたりします。そうすると徐々に気持ちの整理ができてきて、現在の気持ちから過去の気持ちへ、現在の「終われていない」出来事から過去の出来事へと「終える」ことができるようになるのです。
今までの話は、転職についてでしたが、人生におけるトランジション(転機、節目)はそれだけではありません。進学、就職、結婚、出産、昇進、転居、退職、失業、離婚、死別等、さまざまな人生の変化が私たちを待ち受けています。それぞれにおいては、これから始めることに目が向きがちですが、実は、きっちり気持ちの整理を終えていないと、新しいスタートをスムーズに切ることが難しいのです。節目についてさまざまな理論がありますが、そのなかでブリッジズのトランジション論が「終わり」の整理の必要性について、わかりやすくまとめていますので、紹介します。
ウィリアム・ブリッジズの『トランジション』には、「新しいことにとりかかる時には、「終わり」を処理する必要がある。新しく育つものは、古いものでおおわれた場所には根づかない。「終わり」は、過去の習慣、生き方、物の考え方を取り除くプロセスである」と書かれています。
●すべてのトランジションは何かの「終わり」から始まる。
●まず何かの「終わり」があり、次に「始まり」がある。そして、その間に重要な空白ないし休養期間(ニュートラルゾーン)が入る。
「わらわれは普通、「終わり」はできるだけ早く簡単にすませて、次に進みたいと思うものである。しかし、じっくりと時間をかけて「終わり」に向きあうことによって、新しい「始まり」を切ることができる」と説明しています。
ここで言われているニュートラルゾーンで、『「終わり」の整理』を行います。
このニュートラルゾーンはどのような時期なのか、ある研修会に参加したときの資料にわかりやすくまとめられていたので、ご紹介します。
① 自らに責任を持ち「自己管理」する
② 何が変化するのか、「変化による影響」は何かを明らかにする
③ 思い切って「捨てるもの」は何かを決める
④ 「終わるもの」は何かを明らかにする
⑤ 転機の感情体験をありのまま受容する(不安、迷い、葛藤)
⑥ 安定しているもの・維持するもの・継続するものを明らかにする
⑦ 大きな決断をする時には時間をかける
私がカウンセリングにおいて実践していることは、④「終わるものは何かを明らかにする」と⑤「転機の感情体験をありのまま受容する」です。「終わるもの」を明確にし、向き合うことによって、自ずと③「捨てるものは何かを決める」⑥「継続するものを明らかにする」につながっていきます。そして⑦です。重大な決断は、夜中にせず、あせらずじっくりと時間をかけることが大切です。
辛いことがあったり、悲しいことがあって、何かを諦める、辞める、別れるということがあったとします。次に新しい出会い、心機一転挑戦する前に、ぜひ、ご自身の感情に蓋をしないで、「終わり」に向き合ってほしいのです。見ないふりをして、新しいことを始めたとしても、気持ちに決着をつけていないと、収まりがつかないままの気持ちが、モヤモヤやイライラとなって、いろいろな局面でちょこちょこ顔を出してしまいます。
まずは、ご自身の中から外に出してみてください。
話をするのもよし。ノートに書き留めるのもよし。とても一人で作業をするのが辛いし、怖いということであれば、カウンセラーと一緒に作業をすることも有効です。ピアカウンセリング、ピアサポートというような、同じような体験をした仲間の話を聞き、自分自身も話すことによって、気づきが得られたり、目標に向かっての気持ちや行動を支えあうこともできます。
大きな転機としては、失業、離婚、死別が挙げられますが、失恋や転職においても、傷つきを経験し、後悔、反省に苛まれることがあります。次に進まれる前に、ぜひ『「終わり」の整理』をすることをお勧めします。
ブリッジズが「終わり」→「ニュートラルゾーン」→「始まり」と説明しているように、転機や節目のときには、時間をゆっくりかけて「終わり」を整理しましょう。たとえ空白の時間ができたとしても、焦る必要はありません。それは新たな始まりに必要な時間であり、その時間があるからこそ、新しいことにとりかかることができるのです。
新しいことを始めるには、まず、「終わり」を整理し、過去に蓋をせず、混乱や苦悩を経験する時期を経る必要があるということです。一人では難しい、不安な場合は、話をきいてくれる「誰か」に手伝ってもらいましょう。
・ウィリアム・ブリッジズ(2014)「トランジションー人生の転機を活かすために」倉光修・小林哲郎訳、パンローリング(株)
・金井壽宏(2002)「働く人のためのキャリア・デザイン」PHP研究所
・宮城まり子(2015)日本産業カウンセリング学会・研修会資料
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