更新日 2024年08月25日 | カテゴリ: 専門家インタビュー
今回は、練馬若者サポートステーションで勤務しながら、様々な活動に取り組んでおられる臨床心理士の鏡さんにインタビューをさせて頂きました。
厚生労働省の委託事業の1つが、地域若者サポートステーション事業で、全国160か所あります。東京は他に9か所。事業内容は15〜39歳までの若者(厚生労働省の規定)を対象に就労支援をするための相談機関です。ハローワークに行く方の一歩手前で、 働きだしたい、動き出したいけどどうしたらいいかわからない、一歩が踏み出せないという方が来所されます。
来所される方々の相談内容が、近年は多岐に渡っていて、ひきこもり、不登校、発達障害、うつ病を抱えている人などが最近増えてきているのが特徴的です。また、身近な大人や周囲の人に傷つけられて、抑圧されてきた人が多いので、ここでは話を聞いてくれる大人もいる、ということを知ってもらうことを大切にしています。そのため、見守りながら寄り添っていきます。
そうですね。最初、来所者は、「仕事がしたいけどできない」といった悩みを抱えて来るのですが、実際の悩みは就労のことではなく例えば家族の問題とか、メンタルの問題とか、いろいろな問題を抱えており、それに対しても相談をのっていきながら就業に向かって一緒に歩んでいくイメージでしょうか。
よくハローワークと比較されますが、ハローワークはすぐ動ける人に対して仕事の相談をして、就職先を紹介していくことが役割です。しかし、サポートステーションは、すぐ仕事に行けない、働きたいけどそのための下準備が必要な人の下準備をお手伝いをするところなので、性質が全く違います。
また、相談のみならず、来所者と一緒にフットサルなどのスポーツをしたり、みんなで料理をすることで、社会との接点を作っていくプログラムも提供しています。相談だけではなかなか効果が出ない人に対しても、このようなプログラムを通じて、自分を変えていくキッカケを提供しているのです。
しかし、それだけやっていれば就労できるというわけは無いため、「そろそろ就労出来そうかな?」という人に向けて、履歴書講座や面接講座、練馬の地元企業さんへのインターンシップ・プログラムなども提供し、スムーズな就労へ繋がるケアを意識しています。
各人それぞれ、悩みや葛藤、不安などを抱えていますから、サポートステーションがあるから行ってみよう!と、行動に移すことはなかなか難しいようです。 我々のホームページを見て自発的に来る方もいるのですが、ほとんどは家族や友人に連れてこられる方がほとんどです。
そういった方々は、最初かなり拒否反応が強く、すぐに来なくなってしまうのではと思われがちなのですが、逆です。定期的に来所するようになるケースが多いです。
その点は我々スタッフとしても、努力やケアを欠かさず意識して行っているポイントですね。年齢層も家庭環境も諸問題もバラバラですし、個性もあります。 故に、その人その人に合わせてコミュニケーションをしていく必要があります。見かけたら一言でも声をかける、仕事の話だけではなくアニメの話趣味の話など、幅広い話題を投げかけてみて、本人との距離を縮めていく。といったケアを継続することが大事です。
また、施設内で友達ができ、友達同士で話したり遊ぶことが楽しみになる、という事も大きな要因だと思います。先ほど話したスポーツや料理を通して、心を通わせ、一緒に時間を過ごせる「居場所」としてサポートステーションが機能している側面は往々にしてあると感じています。
人によってバラバラですね。早い人は1ヶ月、長い人で6年かかったケースもあります。だいたい1〜2年利用する人が多い印象です。例えば「働く」ということに向き合うのに1年かかる人もいるのです。
また、働きたい気持ちはあるけど、働くことが怖いという人もいます。我々スタッフも根気強くサポートしていくことが求められています。人によっては、強い言葉をつかって後押しする場合もありますし、じっと相手の話を聞いてあげることに徹して、心が癒えていくのを待つこともあります。
理由は様々あるのですが、結局のところ「現実」と向き合うことに対して「恐怖」と「不安」を抱えているのは来所者に共通する点だと思います。
例えば「自分は働くことは出来るし、出来ないことはない」と思っている人もいます。しかし、現実世界で実際に働くと、その「出来る自分のイメージ」が崩れることも薄々気がついているんですね。
だから、そのイメージを出来る限り守りたい。その反面「働きたい」という思いも持っているので、葛藤するんです。自分と向き合うことが怖いんですね。これを解消していくのには時間がどうしても必要で、長期間のサポートが欠かせません。一番多いのが正社員の事務ですね。しかし、有効求人倍率も高ければ、来所者がイメージしているような単調な仕事でも無いですよね。求められるスキルも多岐に渡りますし。
これからわかるように、社会との接点が極端に少ない来所者の人達の中には、「職種」の選択肢が圧倒的に少ないのです。話を聞いてる限り、営業、事務、建築業、販売員くらいです。 情報源がインターネットやTVだけ、ということも影響して、とても偏った狭い視野に陥っている人が多いです。
結果、社会人は凄い優秀だというイメージを持っています。
以前、「僕は普通の人になれない」という相談を受けたことがあります。「君の考える普通って?」と聞いたら、六本木にお勤めで、モデルの彼女、外車に乗っていて、一時代前のキムタクが世の中には溢れている様な話が出てきたんです。それは「普通」じゃない、一握りだよといったら、鏡さんは普通の人だからそう言えるんです、僕の気持ちはわからないといわれましたね。
そういう人達にインターンを体験してもらうことで、企業でもだらしない人、デスクで寝てる人を見たりして、そういう人たちも仕事ができているのであれば、自分でもできるかもと感じて欲しいですし、今までの狭く、偏った考え方を変えていくキッカケになれば良いなと思っています。
1日〜3日という短期間ではありますが、参加することで「自分にもできる仕事がある」「役立てることがある」という「実感」を得ることができる。 これは本人にとても大きな収穫です。自分は必要のない人間だ、何も出来ない人間だ、とずっと思っていたわけですから、その考え方から抜け出すキッカケになっていると感じています。
また、受け入れて下さる企業側も、最初はおっかなびっくりで、どんな人達がインターンに来るんだろうか、と不安を抱えていたみたいなのですが、受け入れてみた結果、思っていた以上に「普通でした」「良かったです」という評価をいただけています。 サポートステーションに来るような人達に対して、企業側も「先入観」を持って見ていたのは否めませんが、こういったプログラムを通して、互いに理解し合えれば、よりスムーズに就労へ結びつけることが出来るようになるのかなと思います。
今では、年度末に行っているサポートステーションの報告会にインターン先の社長さんがいらっしゃったり、良い関係性を築けていると感じています。
限定的になりますが、サポートステーションに来られる方々の特徴は「欲が無い」若者が多いように思います。 働く理由として「お金がほしい!」ではなく「社会に参加したい!」という動機の方が強いです。
多くの人が、実家暮らしで基本的な生活ができていて、家もあり、ごはんも出てくる。また、あんまりほしいものがなく、お金を使わない。例えるなら仙人みたいな印象を持ちます。多くの欲を切り落としている生活をしていて、何かがほしい、何かやりたい、というものがあまりない感じがしますね。
家の狭い空間で生活していると、あれがしたい、これが欲しいといった「欲」が鈍化していくのかもしれませんね。例えば、こんな事例があります。就労の相談にのっていて、みんな時給にこだわらないんです。いくらくらいほしいの?と聞くと答えられない人が多い。
最近、仕事の探し方講座で、自分が求める就労条件を書いてもらうのですが、距離と日数と時間は出てくる。距離も大体1時間以内とか、自転車で通える範囲とか出てくる。
しかし、お金は意外と出てこないんです。年金が払えればいい、という発言がたまにある程度です。ただ、年金で毎月いくら支払う必要があるのかわからないため、たぶん3-4万稼げれ大丈夫なのでは?となる。
では、毎月3〜4万稼ぐとなると時給900円で換算すると、ようやく「稼ぐって結構大変なことかも」と思い始めるんです。 一人暮らししたい、自立したい、という人が1か月3〜4万稼ぐイメージがわいていない。それだけ、お金に対して無頓着で、欲もないのです。
現代のコミュニケーションの難しさがあると思います。昔に比べて人とコミュニケーションを取る頻度と手段が多くなり、様々な場面に対処するために求められるコミュニケーションスキルが何倍も難しくなっていると感じます。コミュニケーションスキルが低いと、時間を守り仕事をきちんと真面目にする人でも口下手だから面接に落ちてしまいます。
昔の職人は人と上手くコミュニケーションとれなくても技術があればよく、怒鳴ったり、頑固だったりというイメージがありますよね。でも現在はサービス業が膨らんできているのと、ものづくり企業に行くにも面接があり、そこに今壁がありますね。ぜひ企業にはまず雇って仕事をさせてみて、と思います。
また、若者の特に若い年代は家庭環境がとても重要です。不登校生徒の例だと、元々両親が不仲だったのに、自分が不登校になった途端両親が協力してなんとか自分を学校に行かせようとしている。その光景を見ると、自分が学校に行ったらまた仲が悪くなってしまう、と感じ、自分が学校に行くわけにはいかなくなってしまうのです。
また、他の例ではお母さんとお父さんの価値観が違いお母さんは学校に行け、というがお父さんは行かなくてもいいと言う。子供はお父さんがそう言っているから、と行かなくなり、お母さんのいうことは聞かなくてもいいんだ、と考えるようになり問題がどんどん悪化していくこともあります。
一昔前のような大家族ではなく、核家族化している現代だからこそ、両親間の関係性が子どもに与える影響は大きくなってきていると感じます。実際、サポートステーションでも、当事者ではなく両親間の問題を解決することで、当事者の問題も解決されるケースも少なくありません。そのようなケアは、今後さらに重要性が高まっていくように思います。
そうですね。とても珍しい就労ケースというか、人生って何があるかわからないな、と感じずにはいられなかったケースがあります。
サポートステーションから巣立っていって上手に行くケースというのは、往々にして「内発的動機づけ」があることが多いです。他人に鼓舞されたり命令されて動く「外発的」な動機だけでは長続きしません。 その「内発的動機づけ」を強烈に持っていた人がいました。
今まで何もしなかった子が、アニメが好きで好きで、ある日、話を聞いていたら突然「アニメのかわいい女の子を書きたい!」と絵を書き始めたんです。それがきっかけでサポートステーションでずっと絵を描くようになったと思ったら、今度は絵をかく勉強がしたいから専門学校行きたい!となったものの、結局専門学校には行かず、紆余曲折し、カナダに大学にいって好きな絵を学んでいる。というケースですね。
とても理解がある両親だったということも影響してはいるのですが、自分が動き出したり、自分はなにかが出来る、と思うようになってからというもの、どんどん行動に移し、自分の人生をトントン拍子に切り拓いていく事もあるのだなと、とても感動しましたね。 今では、カナダで彼女と楽しく暮らしているみたいです。この間偶然街で会って、自慢されましたね(笑)。
カナダに行った彼を見ると、そう思いますね。しかし、彼の場合は「強烈に好き」だった。何よりも「絵を描く」ことが好きで、没頭してました。 しかし、多くの来所者は「好き」なものはあるけど、無かった無かったで、問題ない、といった程度の「好き」であることが多いです。
彼ら、彼女らにとって、やらないと家にいて時間をつぶせないからゲームとかパソコンに向かうしかないんです。 前に関わった若者で、何が一番引きこもりのときつらかった?と聞いたら「明日何をしようか考えるのがつらい」「朝起きたとき今日何をしようと考えるのが苦痛だった」と答えました。
不登校の子も暇になって学校に来るようになる子もいる。飽きてやることないからサポステに来る人もいる。そんな人達と、我々がしっかりと向き合いながら、内発的動機づけになるような「好き」を生み出していけると良いなと思いますね。
はい。基本的にはこれまでどおり、人の「青年期」の支援を継続してやっていきたいと考えています。元々、就職氷河期時代に友人が悩んでいる姿を見たことがキッカケで心理学を学び、臨床心理士の資格を取り、同様に悩みを抱えている人達の支援を行ってきました。
また、今まで一番多く関わってきたのは発達障害の方たちで、利用者の方も発達障害を持っている人が増えてきています。僕もその傾向があるのですが、発達障害といっても、特別なことでなありません。
発達障害はパズルみたいです。ピースはひとつひとつ人類みんなもって、ピースがあわさって1枚の絵になると発達障害という名前がつく。できかけのパズルという人もたくさんて、その中に僕もいます。
昔に比べて、今そういう風に言えるようになったことはいいことだと思いますし、より積極的に支援をしていければ良いなと思います。
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