家族全体を1つのシステムとして捉え変化を促していく家族療法とは?

更新日 2024年08月25日 | カテゴリ: 子育て・家族関係

臨床心理学を学問的基礎とするカウンセリングには、様々な学派があります。その中でここでは家族療法を紹介しましょう。

家族療法は、家族全体を有機的に相互作用しあう1つのシステムであると考えて、その家族全体を援助の対象として働きかけようとする心理療法のことです。悩んでいる人ひとりと1対1で行う個人心理療法とは違い、必ずしも家族全員の参加が必要ではありませんが、その家族の重要なメンバーとの間で面接をしていきます。

例えば、不登校の小学校4年生の花ちゃんが居たとします。花ちゃんの不登校は花ちゃん個人の問題(いじめられている、先生が怖いなど)と考えて、花ちゃん本人や養育者であるお父さんやお母さんと別々に面接(親子並行面接)するのが個人心理療法です。

家族療法では、花ちゃん個人の問題と捉えるのではなく、花ちゃんの家族全体の問題としてとらえます。

例えば花ちゃんが「先生(男性)が怖いから学校へ行けない」と言ったとします。それを聞いたお母さんは「そんなに怖いの?」と言って甘やかしてしまう。でもそんなお母さんをお父さんは「甘やかし過ぎだよ!」と怒ってしまう。

そんなお父さんにお母さんも花ちゃんも怯えてしまって、益々お母さんは花ちゃんを守ろうとしてしまい、結果的には花ちゃんもお母さんに甘えてしまうし、お父さんのように怒る学校の先生が益々怖くなってしまって学校へ行けなくなってしまう。

パッと見では、花ちゃんが先生を恐れているから学校へ行けなくなってしまっているようですが、よくよく見てみるとお父さんとお母さんの問題(夫婦)、お母さんの過干渉など色々な家族内のコミュニケーションや対処する方法の悪循環で問題が益々大きくなっているようです。こうした状態の家族全体に援助していこう、というのが家族療法です。

家族メンバーが数人同席する家族療法での信頼関係作りは個人心理療法と一味違います。「ジョイニング(joining)」と呼ばれています。

要はセラピストが家族のために家族と共に考えようとする態度で、具体的にはその家族らしい言葉遣いや価値観を大切にして、時にはユーモアも交えて場の雰囲気を和らげる、そんな配慮をしながら、家族と共にセラピストが信頼関係を築いていきます。

そしてセラピストは家族メンバーひとりひとりの味方になってそれぞれの思いを認める、誰か一人に肩入れするのではなく、全てのメンバーに等しく肩入れするのです。

このようなセラピストの姿勢を「多方向への肩入れ」と呼びます。例えば、メンバー同士の言い争いがあっても、それぞれの思いが公平に聞き届けられ、メンバー誰もが大切にされる、こういう体験が家族メンバー相互の信頼と公平な関係を再び作る大切な基盤となるのです。

家族療法の成り立ち

実ははっきりと何時から始まったと言い難いのが現状ですが、大凡は1950年代にアメリカでとされています。アメリカ、カルフォルニア州、MRI(Mental Research Institute)でベル(J.Bell)が行った家族合同面接が最初の試みだった、とも言われていますが、実際にはこの頃ほぼ同時期にアメリカの各地で家族全体をひとまとまりに捉える家族合同面接が試みられ始めました。そのため様々な学派が林立しています。

ここでは沢山ある学派に共通していることと、幾つかの有名な学派のご紹介をしましょう。

共通点

・システム論に基づいている
・家族のコミュニケーションを重視している
・チームによって治療にあたる

この3つが共通していると考えられています。

有名な学派

・コミュニケーション学派

先ほど名前が出来たMRIが中心となっています。家族メンバーの内面の問題を取り上げるのではなく、問題を維持する様な行動パターンが繰り返されている、と考えてアプローチします。

具体的には、例えば不登校の場合、何とか学校へ行かせようとする様々な行動が益々不登校になってしまう、と考えて、これまでとは違う方法を試みて家族の中のコミュニケーションを変化させていこう、とするのです。

・構造派

家族という1つのシステムは、夫婦・親子・兄弟姉妹などのサブ・システムから出来ている、と考えます。そしてそのサブ・システムの間には境界があり、本来ははっきりしています。でも問題を抱えている家族は、その境界が曖昧、過度にくっつき過ぎていたり、バラバラになってしまっている、と捉えます。

例えば、先ほどの花ちゃんのお家の様に、お母さんと花ちゃんがくっつき過ぎていてい、お父さんが除け者になっている様な場合です。そこでカウンセラーは花ちゃん家の交流に参加しながら、問題を明らかにして、いい感じの交流パターンを作る援助をして、お父さんとお母さんの夫婦としての絆を再構築し、お父さんと花ちゃん、お母さんと花ちゃん、親子の関係もバランス良くなるように変化を促してきます。

・多世代派

ジェノグラム、いわゆる家系図を使います。世代を超えて問題が影響する、と考えます。虐待に関してもこの考え方で捉えられることが多くあります。虐待体験を持った親が自分の子どもにも虐待をしてしまう。そしてそれが1世代ではなく代々続いてしまう、そんな考え方です(虐待の世代間伝達と言われています)。

ある意味で親子関係が過度にくっつき過ぎてしまって、感情的にも知性的にも1人の人間としてきちんと独立出来ていないことが原因で親への忠誠心に縛られ、親世代からの問題を繰り返してしまうのです。カウンセラーはこのくっつき過ぎた状態から一人ひとりの本当の意味での独立を促し家族関係を変化させることを促していきます。

他にもまだありますが、ここではこの3つの学派を紹介しました。

家族療法のKey概念

次に家族療法を理解するために鍵(Key)となる幾つかの概念をご紹介します。

・システム論

家族全体を1つの有機体として考える、ということです。家族全体を1つの生き物として考えるのです。また花ちゃんのお家を例に挙げると、お父さんとお母さんと花ちゃんがバラバラではなく、相互に関わりあった1つのまとまり、システムなのです。

そして1つのシステムは周囲の環境との間で常にエネルギーや情報をやり取りしています。花ちゃん家も親戚、学校、地域など数多くの他のシステムとやり取りしています。

・IP(アイピー:Identified Patient)

家族療法においては、困っている人、悩んでいる人をIP(アイピー:Identified Patient)と呼びます。IPの意味は、患者とされた人(子ども)のことで、家族システムの中でたまたま問題や症状を抱えた人(子ども)です。実際には家族がシステムとして機能不全を起こしたことによって、その家族を代表して患者になってしまった、と考えます。花ちゃんがIPとなる訳です。

症状や問題はIP個人のSOSであると同時に、その家族のSOSでもあるのです。

実際に1950年代の研究者たちは、臨床場面でお姉さんの状態が落ち着くと弟が問題行動を起こしたり、旦那さんのうつ状態が良くなると奥さんが落ち込んでしまう等、家族の誰かの状態が良くなると、その他の家族が調子悪くなってしまう、という事例に多く目にしました。

その事実からまるで家族の中の誰かが問題を抱えることで家族がバランスを取っているのではないか?と考え始めるようになったのです。

・直線的因果律VS円環的因果律

直線的因果律とは、お父さんが厳しいから太郎君は反抗的になった、とかお母さんが甘やかすから花ちゃんは学校へ行かなくなった、の様な原因→結果、いった一方向の考え方のことです。私たちは大体いつもこんな感じで考えますよね。

一方の円環的因果律では、ある出来事は多方向に影響を与え、また出来事同士が互いに影響しあって、どちらも原因にも結果にもなり得る、と考えるのです。だから因果関係は曖昧で、その出来事の生起は円環的にしか辿れない、と捉えます。

花ちゃんの不登校も花ちゃんが先生を怖がるのは、お父さんの起こる姿を連想しているからかもしれないし、お父さんが怒る本当の原因はお母さんと花ちゃんが仲良すぎて何だか仲間外れにされている感じがして寂しいからかもしれません。

今現実問題としては花ちゃんの不登校ですが、本当の原因や結果は曖昧で色々な事象が相互に影響しあっていることが想像できますよね。家族療法ではこの様に、家族全体を1つのシステムとして捉え、円環的因果律で問題を考えていこうとするのです。

いかがですか?少し家族療法がどんな感じかお分かりいただけたでしょうか?個人療法とは違い、家族全体を1つのシステムとして捉え、働きかけ、家族全体が変化していくことを目指した療法なのです。

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