心理学の三大巨匠の一人・ユングが創始した「ユング心理学」とは?

更新日 2023年05月18日 | カテゴリ: カウンセリング

ユング心理学とは、スイスの精神医学者ユング(C.G.Jung 1875-1961)によって創始されたもので、分析心理学ともよばれています。ユングは、フロイト、アドラーと並ぶ心理学の三大巨匠の一人と評されています。

ユングは、牧師の子どもとしてスイスに生まれました。家庭環境のこともあって、幼少期より自分の内面に強い関心をもち、善と悪、神と人間についての思索に没頭していたといいます。

しかし、ユングは、内的基盤をもたない形式的な信仰というものに疑問を抱き、父のあとを継いで牧師になることはせず、医学を志しました。チューリヒ大学の医学部を卒業後は有名な精神医学者の助手となり、フランス留学を経て帰国後、言語連想法を用いてコンプレックスの存在を明らかにしたことで名声を得ます。

その後、ユングはフロイトの著作『夢判断』に感銘をうけ、自分の著書をウィーンにいたフロイトに送ったことから文通が始まります。二人が初めて顔を合わせた際には、いきなり13時間も会話が弾んだそうです。以後、アメリカへ招かれ一緒に講演旅行をするなど、二人は親交を深めます。

フロイトに乞われて国際精神分析学会の初代会長まで務めたユングでしたが、二人のあいだでしだいに無意識やリビドー(精神的エネルギー)についての視座や考え方の相違が生じ始めます。結局、ユングはフロイトと対立し、論争の末に決別をします。

このことをきっかけに、ユングは長い間大変な心理的葛藤に苦しみ、内的・外的危機を体験することになるのですが、この危機を克服することを通じて、彼独自の深層心理学と心理療法の体系を確立していくのでした。ユングは、自らの精神的危機について記した『黒の書』と、それに絵やコメントを加えた『赤の書』を著して、情動をイメージに翻訳することで精神の安定を見出していったのです。

ユングの打ち立てた心理学は、概観しようにも大変壮大なものになりますので、ここでは、フロイトの考え方と対比させながらその一部を紹介することにします。

リビドーについて

フロイトは、リビドーを性的なものに還元したのに対し、ユングは人間の活動源としてより広い意味での心的エネルギーとみなしました。

無意識について

ユングは、各地の神話や伝説、昔話を研究して通底するパターンを見出し、これらが、精神病理をもつ人たちの夢、幻覚、妄想と共通項をもつことを発見しました。この経験から、無意識を二層に分けて、個人的無意識と集合的(普遍的)無意識を仮定し、「人類の歴史が眠る宝庫」にたとえました。一方、フロイトは、無意識を個人の意識に抑圧されたものの「ゴミ捨て場」ととらえていました。

元型の概念

ユングは、集合的無意識は種をこえて動物にも共通する個人の心的基盤であると提唱し、ペルソナ、影、アニマ、アニムス、グレートマザー、トリックスター、老賢者、セルフといった様々な元型の概念を呈示しました。

タイプ論

ユングは、関心や興味が外界の事象や人物に向けられる人と、内心の世界に向きやすい人がいることに注目し、前者を「外向的」、後者を「内向的」と区別しました。また、人間の意識について、思考―感情、直観―感覚という対になった4つの機能を仮定しました。それらは他方に優越したり、劣等したりして併存し、相補的な関係にあると考えたのです。

ユングは、1948年に共同研究者たちとともにスイスのチューリヒにユング研究所を設立し、ユング派による心理療法の基盤を築きました。日本における心理臨床の大家である河合隼雄(1928-2007)は、日本人として初めてこの研究所でユング派分析家の資格を取得しています。

先にお伝えしたとおり、ユングは個人を超えた集合的無意識を重視しています。また、『赤の書』において、自分のみた夢やヴィジョンを記録することを試みています。

ユング派の心理療法では、精神分析のように言語によって自由連想をするのではなく、クライアントの無意識から沸き起こる内容について、夢やヴィジョン、絵画といったイメージとしてとらえることによって、これと対話していこうとする姿勢が中心となります。

たとえば、ユング派の心理療法における夢分析は、フロイトによる夢分析のように夢に隠された意味を探究するのではなく、夢の意味を深めることをその目的とします。

これは拡充法といい、セラピスト(臨床心理士)が夢の主題をめぐって夢見手であるクライアントにその感想を聞きながら、対等な立場で話し合い、夢の意味や目的を考えることによって治癒に生かそうとする方法です。ユングは、夢を集合的無意識としての「元型イメージが日常的に表出している現象」であり、また、「個人的無意識の発露」でもあると考えていました。

これまでみてきたとおり、ユング派の心理療法においては、クライアントとセラピストとのあいだを媒介する「第三のもの」として、イメージに重きがおかれます。クライアントのイメージの表出を促すものとして、ユング心理学を基盤に子どもの心理療法として発展した、箱庭療法があります。

箱庭療法とは、全体を一望できる定型の大きさの箱の中に砂とミニチュアの玩具を用いて形成された世界を、セラピストがクライアントとともに味わい、体験していくことで、両者のあいだに深い心の交流がもたらされる技法です。砂遊びに端を発する箱庭療法は、無意識的なイメージが表出するのを助け、ここにおいては言語によらないコミュニケーションが成立します。

河合は、日本に箱庭療法を導入したことでもその功績が知られています。箱庭療法が、欧米に比し非言語的表現が文化として根付いている日本に適していると考えた河合の明察は奏功し、今日では、子どもに限らず成人に至るまで、広くその効果が認められています。興味のある方は、一度セラピストの見守りのもと、箱庭をつくってみてはいかがでしょう。砂の手触りは、あなたの心に何を語らせてくれるでしょうか。

河合は箱庭療法に日本文化との親和性を見出しましたが、同様に、ユング心理学も、東洋文化における世界観から多くのヒントを得ています。『赤の書』には、仏教の世界観に伝わる曼荼羅のような絵が多く見られますが、これこそがユングが心に描いた集合的無意識の概念といえるものでした。

ユングは、ここに気づきを得て、人間の個々の意識的自我を重視してきた西洋文化に限界を感じ、人間という存在の全体性に重きをおく東洋文化へ深い関心をよせていました。

ユング心理学における重要な概念としてもうひとつ、意識領域を拡大し、意識的な精神生活を豊かにする「個性化の過程」があります。ユングは、フロイトとの決別を機に大変な精神的危機状態に陥りました。ですが、この危機からの回復過程とは、「個人に内在する可能性を実現し、その自我を高次の全体性へと志向せしめる努力の過程」でもあったのです。

ユングは、これを「個性化の過程」あるいは「自己実現の過程」とよびました。心理療法をすすめるにあたって、クライアントの当座の治療目標と同時に、個性化の過程を視野にいれておくことは、症状が再発するのを防ぐことに役立ちます。大局的な見地にたつならば、セラピストとは、クライアントが個性化の過程を歩む際の伴走者として存在しているのです。

ユング心理学に関心をもたれた方は、古典的存在となった名著、河合隼雄『ユング心理学入門』(1967年 培風館)を一読されることをお勧めします。

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