より良い認知症介護に必要なのは「介護者のストレスケア」。 介護における心理カウンセリングの可能性とは | 同志社大学 武藤崇先生

更新日 2024年08月23日 | カテゴリ: ストレスに対処したい

介護ストレスを抱えた家族をケアする必要性

ーー武藤先生は、同志社大学の心理臨床センターの指導相談員としても、心理療法の研究と実践に取り組んでおられます。特に専門としておられるのはどんな領域なのでしょうか。


成人を対象にした心理療法の開発が専門です。特に、エビデンスに基づいて開発されてきた、新世代の認知行動療法と呼ばれる「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT;アクトと読みます)」の研究・実践・普及を行っています。実践としては、うつ病、不安症、過食症、慢性的な痛みなどのお困りごとに対する解決を担当することが多いですね。

ーー今回、新たな研究テーマとして、認知症の介護を担うご家族に対するストレスケアプログラムを提供されるのですね。この背景にはどんな事情・思いがあるのでしょうか。


この新しい研究テーマに取組み始めたのは、ある有料老人ホームから「認知症の介護をしているご家族が精神的にしんどくなっているが、自分たち(施設職員)は、ご家族のケアをするまでの余裕はない。なんとか助けてもらえないか」という電話をいただいたのが、きっかけでした。

その後、実際にいろいろと調べてみると、現行の介護福祉サービスでは「そこまで手が回っていない(回せない)」という実態が、だんだんとわかってきました。これは、ちょっと見過ごせない状態だなと感じましたし、臨床心理士などの心理職がお力になれることも多いのではないか、とも思ったのです。

ーー今回の研究では、オンラインでのプログラムを提供されるとのことですが、なぜ、オンラインのカウンセリングのサービスを提供しようと考えたのですか?


私は,2016年から同志社大学心理臨床センターで,介護をする方のカウンセリングを行ってきました。しかし,このカウンセリングを希望している方の中には「平日の日中,センターまで行く余裕がない」ために,利用を諦めるという方が少なからずいらっしゃいました。というのも,認知症の方がデイアサービスに行っている時間に,急いで他の家事(買い物なども含む)や自分の用事を済ませなくてはならないからです。

そこで,オンラインのカウンセリングなら,そのような方にも利用してもらえるのではないかと考えたのです。

※2017年11月現在、介護ストレスのオンラインカウンセリングプログラムの研究の協力者(家族介護者)を募集しております。
お申し込みはこちらのリンクより

認知症介護制度は、家族へのケアをカバーできていない

ーー認知症介護にあたって、現在の制度の限界はどんなところにあるのでしょうか。


2015年に、厚生労働省は「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて〜」を策定しました。そのプランは、認知症を一般的な病気と捉えて、関係府省庁が連携して認知症高齢者等の日常生活全体を支える国家戦略として位置づけられています。

そして、このプランは、

①認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
②認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
③若年性認知症施策の強化
④認知症の人の介護者への支援
⑤認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
⑥認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
⑦認知症の人やその家族の視点の重視

という7つの柱で構成されています。もちろん、家族介護者に対する支援も「④認知症の人の介護者への支援」として含まれています。しかし、現状では、認知症カフェと呼ばれる、家族などの自助グループ(医師などの専門家もかかわったり、厚生労働省からの助成金が支給されてはいるものの)による支援くらいしかありません。

残念ながら、お金も人手も足りないため、専門職による個別性や多様性が重視された「きめの細かいご家族へのサービス」が安定的に提供されてはいません。

介護者の70%である家族が抱えるストレスとは

ーー介護するご家族は、一般的にどんなことに苦しんでおられるのでしょうか。


2017年度の厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、要介護者の介護を担うのは、主に同居の家族で、全体の約60%を占めます。別居の家族を含めると約70%になります。一方、介護事業者が占める割合は13%に過ぎません。つまり、介護の担い手は、現状でも「家族」なのです。

介護データ

たとえ、介護を担う人が家族であったとしても、介護保険制度を使って公的なサービスを最大限利用したら、負担もかなり少なくなるのではないか、と思う方もいるかもしれません。しかし、認知症の初期の状態にある方は、日常生活動作はまったく問題がない場合も多く「要介護」と認定されません。そのため、デイサービスが利用することができず、家族が一日中ケアをすることになります。たとえ、要介護認定を受けてデイサービスが利用可能だとしても、上限回数が設定されていたり、定員がいっぱいで「空き待ち」であったり、他の利用者との相性が合わなかったり、と思うように、負担が軽くならないことも、残念ながら、多々あります

そして、認知症の方と一日中一緒にいる家族介護者は、自分の仕事や役割が他にもあるにかかわらず、そして専門家でもないのに、ケアをしなければならないことがしばしばです。時には、認知症の方から「感謝もされないばかりか、ときには心ないことを言われる」こともあります。つまり、認知症の人に対するかかわり方が分からないばかりか、やりがいや手応えも見つけにくいというところが、まずはたいへんな点であると言えます。

家族介護者がカウンセリングを受ける意味

ーー介護する人がカウンセリングを受けることには、どんな意味がありますか?


一般的な認知症の理解や関わり方に関する情報は、最近、かなり入手しやすくなってきました。しかし、認知症に関連する問題は、個別性や多様性が高く、一般的な情報が入手できたとしても、それが役に立たないこともしばしばです。やはり、より専門的な知識や技術を持った人に、個別に相談できた方がよいのです(もちろん、それが可能なケアマネージャーさんや看護師さんがいらっしゃいますが…)。そして、訪問介護も時間が限られていますから、介護家族者が抱える悩みごとまで対応する余裕はあまりない… それは、ある意味、仕方ないのかもしれません。

だからこそ、介護する人がカウンセリングを受けることのメリットがあるのです。つまり、

①自分の家族や状況に即した問題解決の方法を一緒に考えていくことができる
②介護する人の悩みごとをメインで相談できる
③介護する人がもともと抱えている心理・社会的問題も(必要ならば)相談できる

という点が挙げられます。
③については、介護する人も、介護とは別に、自分の老いに対する不安を抱えていたり、仕事上で悩んでいたりすることもあるからなんです。

介護者への有効なケアの種類

ーー海外では、認知症介護者に対するケアとしてどんな方法がとられていますか?


Gallagher-Thompsonら(2012)が1986〜2011年までの研究を調べ整理したところによれば、認知症を抱える家族介護者の負担に対する効果的な非薬理学的な(お薬ではない)方法は

①個人・家族へのカウンセリング(電話カウンセリングなど)
②心理教育プログラム
③特化されたスキル・トレーニング(問題行動のマネジメント、フラストレーションのマネジメントなど)
④複数の構成要素からなるプログラム(訪問支援や個別の介護プランの策定など)
⑤心理療法

という結果でした。②と③は、集団で講習を受けるような形式で実施されるサービスで、日本でもこのようなプログラムが徐々に実施されつつあります。また、④は日本の介護福祉システムに基づくサービスに近いものであると言えます。さらに、⑤の効果的な心理療法は、具体的には、認知行動療法とアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)が挙げられていました。

ーーアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)とは、どんな心理療法なのですか?


これを説明し出すと、長い話になります(笑)。ACTは、実証的な研究に基づいて開発された心理療法です。「アクセプタンスとマインドフルネスの方略」と「価値に基づいたコミットメントと行動活性化の方略」を併せて用いることで、心理的な柔軟性(しなやかなこころ)を育んでいきます。

より分かりやすく言うと、 ACTは、ネガティブな考え方や気分を取り除くことに一生懸命になるのではなく、むしろ今この瞬間に注目してオープンな心持ちを育み、そして自分の人生に大切にしている価値に沿った行動をとることができるように、後押しをしていくものです。また、このような心理的な柔軟性(しなやかなこころ)を育んでいくことで、心理的な苦悩が軽減し、生活の質が高まるのです。セラピーの中では、体験的なエクササイズやメタファーなどを重視し、クライエントに最適なペースと方法で支援していきます。

詳しくは、Amazonで「武藤 崇」で検索していただければ、関連する本がご覧いただけると思います。特に『ACTをはじめる』『よくわかるACT』がお薦めです。

このたび武藤先生が研究事業として行われる介護者向けのACT(新世代の認知行動療法)をベースにしたカウンセリングプログラム(無料、全14回)の研究協力者を募集しております。お申し込みはこちらのリンクより受け付けております。

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