「サリバン先生」との対話から学んだ、抑圧した気持ちに気づく方法【カウンセリング体験談】

更新日 2024年08月25日 | カテゴリ: 体験談

今回は、cotree事務局小西の体験談です。現在はcotreeでお仕事をしている私ですが、新卒で入社した会社で心の調子を崩し、半年ほど仕事をお休みしていました。そこで出会ったのがカウンセリングでした。私の性格は、一見社交的に見えるけれど、自分の本音を人に話すことは苦手で強がりなタイプ。そんな私がカウンセラーのサリバン先生と一緒に自分の本音を見つけていくお話しです。

私はハキハキとして表裏のない人が好きで、自分もそうありたいと思っている。でも、実際は言いにくい事や恥ずかしい事を言葉にするのは苦手で、それをごまかしてしまうことがよくある。社会人になって、この「気持ちを言葉にすること」に直面せざるを得ない出来事が起きた。

なぜ、私はここにいるの?

 

2013年4月、私は大学院を卒業して、中小の広告代理店に就職した。当時はリーマンショック直後。留学から帰ってきて、なんとなく始めた就活で採用された会社だった。別にやってみたい仕事ではなかったし、そもそも私は会社に入ってやってみたい仕事なんてなかった。自分が会社で働くこと自体、他人事みたいだった。

なぜ、自分がこの会社の営業としてテレアポをして、商品の説明をしに行って、売り上げをあげる必要があるのか、私には全く分からなかった。「自分の生活の多くの時間をこの会社で費やし、この人たちと一緒に仕事にエネルギーをつぎ込むのか……」。頭では分かったつもりでいても、心には入ってこなかった。職場の人たちは、優しかったし、気の合う人がいなかったわけではないけれど、毎週月曜から金曜、延々と続くこの生活は、色がなくて本当に無味乾燥だった。

入社して2か月ほど経った6月頃にはもう限界が来た。朝、起きられないし、なんとか起きられて会社に行っても、デスクに長時間座っていることができなくて、週の半分くらいは早退した。鏡に映った自分の顔は、青白くて茶色くて誰の顔か分からなかった。もう限界だと思って会社は休職することにした。でも、今後のことについてどうやって誰に伝えたらいいのか分からなかった。何も自分で決められなかった。

家では、テンションが高くなる時と、低くなる時の落差が激しかった。体が疲れきっていて、トイレにも行けなかった。立ち上がることもできなかったので、一緒に暮らしていた姉に体を引っ張ってもらってようやくトイレに行けた。

サリバン1

この診察で良くなる人がいるなら教えて欲しい

遠方に住む両親に見つけてもらった心療内科に電話をして予約を取った。先生は、60代の白髪ショートカットの頭の切れそうな女医さん。厳しさの中に優しさを持っているような人だったけれど、口調は冷たく事務的で、クライアントに寄り添う姿勢ではないと感じた。

病院に来るのでもやっとなのに、この厳しそうな人に何を言えばいいのか、今私はどういう状況なのか。会社とのやり取りをこの先どうしたらいいのか、不安が広がった。「結局、医者とは薬を出すためのポイントを聞き出して、処方箋を書くだけの人なんだ」と感じられた。

「別に私の話を聞いてくれるわけじゃないんだ。この診察で良くなる人がいたら逆に教えて欲しい」というのが率直な感想だった。

「この人は信用できそうか」というアンテナが働く

受診中、「この診察を繰り返しても効果なさそう」と直感的に思って、すごく勇気を出して診療室の壁に貼ってあった「カウンセリング」について聞いてみた。運よくその日は、カウンセラーの先生がいる日だったので、別室でカウンセラーの先生にカウンセリングとは何をするのか、また、料金はいくらなのかを教えてもらった。正直、内容はほとんど耳に入ってこなくて、そのカウンセラーの先生の話し方、立ち振る舞いから、「自分がこの人に話す気になるのか」、を判断することだけに集中していたように思う。

信用できそうかアンテナが反応し、結論、「やってみよう」と自分からゴーサインが出た。

説明が終わってから、「お願いします。私、カウンセリングやります」と間髪入れずに口が動いていた。そのまま、初回のカウンセリングが始まった。

サリバン2

「サリバン先生」とあだ名をつける

通されたカウンセリングルームは、6畳ほどの広さの古めの部屋だった。机の前には眼鏡をかけた50代後半に見える普通の中年女性が座っていた。その人がカウンセラーの先生だった。小太りの体形で、いまどき誰が履くのと思うような濃い肌色のストッキングを履いていた。正直あまりカッコいいとは思えず、生意気にも「この人に私のことが分かるんだろうか」なんて思ってしまった。

今思えば、「誰も私を分かってくれない」という渦に巻き込まれていた当時の私には、その先生の実直さや、安心感を与えようとする気遣いがまったく分かっていなかったのかも知れない。先生の色付き眼鏡が、ヘレンケラーに出てくるサリバン先生のイメージと重なったので、私は「サリバン先生」というあだ名をつけた。

 

サリバン先生は、私の話を聞いている時は穏やかに見えたが、話し出すと真剣な目つきに変わった。ちょっとドキっとしたが、「それだけ自分の気持ちを真剣に受け止めてくれる覚悟があるんだな」と私には感じられた。時々引っかかる高い声も、慣れれば気にならなくなった。

初回のカウンセリングでは、自分が今どんな状況なのか説明した。会社に入ったけれど体力的についていけないこと、会社の人は悪い人ではないこと、自分はなぜ仕事をしているのかよく分からないこと、こういう状況になってしまった自分が情けなくて、親にも申し訳なくて辛いこと。先生は、「そう、それは大変だったわね」と相槌を打ちながら、私の家族構成、会社で関りのある先輩や上司の性格や特徴を聞いてはメモしていた。

 

ちょっと意地悪なところがある私は、自分の話をしながらも、そんな先生の行動を観察して、「こういうところがカウンセリングのポイントなんだ」、「この人は私というクライアントを前に、どこが治療の糸口になるのか探っているのかな」なんて思ったりもしていた。

それでも、そこまで嫌な気はしなかったし、この人を信頼してみようという自分の直感を信じてその先生と向き合ってみることにした。カウンセリングは2週間に1回、50分で4500円だった。疲れてしまって考えることがうまくできない私は、それが安いのか高いのかも分からなかったけど、女医さんの事務的な診察よりはずっと可能性がある予感がした。

で、あなたはどう思ったの?

カウンセリングは、基本的にカウンセラーの先生との会話だった。でも、普通の会話とは違い、一区切りすると必ず先生から「で、あなたはどう思ったの?」という質問がされた。最初は「これマニュアルなわけ?」といらっとしなかった訳ではない。誘導する気なんだ、分析されるのかな、という不安な気持ちも湧いてきた。それでも結論から言うと、自分の素直な気持ちに光を当ててこなかったその時の私には、この100本ノックのような問いかけが必要だった。

当時私は、チェーンレストラン店内に対して広告営業をしていた。一緒に動くのは上司、先輩を含め3、4人で、メンバーはみんな気持ちの良い人たちだった。でも、私は会社でいつもテンパっていた。自分の仕事の進め方がよく分からなかった。何を誰にどこまで相談して、お客さんにメールを送るのか、どういう場合は誰をCC に入れてメール報告をするのか、上司に報告する必要があるのか、そもそもそれを聞いていいものか。

そうやってぐるぐると考えていると、何も進まない。お客さんへの提案資料作りにデザイナーさんへの指示出し、新規営業……。やらなくてはいけないことは山のようにあるのに、どれも片付かない、進まない。

そんなある時、上司が「小西、〇〇会社の件、どうなってる?」と私に聞いた。何をしていいか分からなくて、その件は何も手が付けられていなかった。私は、頭が真っ白になり何も答えられなかった。

サリバン3

発問をきっかけに自分の気持ちに一歩踏み込めた

この話をサリバン先生にすると、「で、あなたはどう思ったの?」と聞かれた。うまく答えられなかった。頭が真っ白になったと言っているではないか、と思って口ごもっていた。頭が真っ白になって、パニック状態だったと伝えているのに、そこを客観的に、人に伝わるように説明しろ、というのか。それがしんどいのにと思った。でも、自分の気持ちにさらに一歩踏み込んでみる事が今の状態から変わるヒントで、もやもやしている原因なんだということは、自分でもうすうす気が付いていた。

「その時、その上司に本当は何て言ってほしかったの?」とも聞かれた。「そんなの知らない、考えたくない、あなたに関係ないでしょ」と思った。何も言えない自分が嫌だったし、その時の自分の気持ちがわっと噴き出してきて、涙が出てきた。でも、変わりたかったから、もうちょっと頑張ってみた。

「びっくりして驚いちゃったのかしら?」と先生が助けてくれた。その時は、泣きながら「はい、そうだと思います」と言うのが精一杯だった。この時を機に、ぽつぽつとだが、自分の素直な気持ちを言ってみることができるようになっていった。

私は社会人なんだし、自分本位な弱い感情や考えを持ってはいけないと思っていた。 小さな子供でもないのに、人に自分の素直な気持ちや恥ずかしい本音を話すなんて、考えたこともなかった。

シンプルな問いかけの繰り返しが教えてくれた

「で、あなたはどう思ったの?」
「本当はどうしてほしかったの?」

私とサリバン先生のカウンセリングは、大抵シンプルなこの問いかけから自分の心を探っていく練習だった。自分では誰にも見せたくないと思っている気持ちを見つけていく。最初は気恥ずかしいし、うまくできなかった。自分が考えている間、私の答えを待つ先生の沈黙も心地悪かった。でも、徐々に自分の気持ちを見つけられるという体験が増えていった。

私は、「自分がこんなことを思っていたんだ」という正直な気持ちに気が付いた気恥ずかしさ以上に、「見つけた、つかんだ!」という発見が嬉しかった。この発見の後には、「なるほどね。私が気持ちを伝えないから相手にももちろん分からなくて、その反応を見て私は『分かってもらえない』と思っていたんだ」という納得感があった。仕組みが分かると、相手に抱いていた疑心暗鬼も晴れて、不思議と安心できた。思い込みが凝り固まっていた自分の気持ちにうまく説明がついて、収まるべきところに収まっていった。すっきりした。

カウンセリングを始めて半年も経つと、私の状態も徐々に落ち着いてきて、カウンセリングは1か月に1回になった。次のカウンセリングまでの間に、少し凹むことがあっても、「これは今度カウンセリングで話そう」と、脇に置いておくことができるようになった。嫌な出来事だったとしても、不思議なことに今度先生に話してみようとワクワクしている自分もいた。 会社は休んだり、行ってみたり、上司との話し合いがあったり、状況は色々と変化した。結局その会社は辞めることになって、その1か月後に人の紹介で、転職した。転職した先でも、きつくて頑固な上司と、ほとんど人と話しをしないとっつきにくい先輩がいた。転職しても、会社では自分の気持ちなんて全然素直に話せるようにはならなかった。その間、ずっとカウンセリングには通っていた。カウンセリングでも、うまく話せたと思えた日もあったし、やっぱり口ごもってしまう日もあった。

今でも、自分の気持ちを人に表現するのは苦手だと思う。でも、カウンセリングを通じて、自分の気持ちを見つける方法があると知ったことは、これまで自分の気持ちに蓋をしてきた私には大事な体験だった。「知らない」と「苦手だ」は全然違うから。

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