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「どう生きるか」と向き合うことがうつを治す | 臨床心理士 杉原保史先生 インタビュー

更新日 2016年12月15日 |
カテゴリ: 専門家インタビュー
「どう生きるか」と向き合うことがうつを治す | 臨床心理士 杉原保史先生 インタビュー

ーー大学のカウンセリングルームで学生と向き合う中で、学生の抱える悩みについてどんな傾向があると感じられますか?


私のいる大学の学生は、知的にはとても優秀な人がほとんどです。一方で、そういう人が人生に問題を抱えていないわけではありません。むしろずっと問題を抱えていても、勉強はできたからその問題が周囲に許され、放置されてきてしまい、大学に入った後に無力感やうつや不安といったかたちで顕在化することも多いように思います。

あからさまに罪悪感の強い古典的なうつ病のケースももちろんあるんですが、大学生でのうつ病や抑うつ状態というのは、あからさまな罪悪感をあまり伴っていないこともよくあります。落ち込みがそれほど激しくなかったり、生活全体にうつが及ぶのではなく、学業・本業には影響があるけれど、ゲームやアルバイトはできたりします。

カウンセリングの中では、最近は内省して自分の気持ちを話すことができない学生が増えているように思います。「こんなことで困っている」という話をしても「気持ち?よくわからない」という人が多くなっているかもしれません。最近はSNSなどの普及もあって、自分の気持ちと懇ろに向き合える人間関係も減っているのかもしれませんね。

ーー客観的には語れても、主観的な体験を内省できないことが多くなっているんですね。


ただ最初のうちはただしんどい、という話をしていても、聞いていくと、生きる意味は何か、何のために今の生活があるのか、といったところに話が及びます。未来に対する希望が希薄とも言えます。

「うつがある」というよりは「人生の価値との接触がない」ということが多い。人生に希望を持てず、価値を感じられなければ、うつになって当たり前。それは単に個人の病ということだけではなく、今の時代の文化とか、社会の全体の情勢と関わっている面もあります。そして学歴的には成功者だとしても、人生を意味あるやり方で生きているかということは受験勉強とは関わりのないところの話ですから、そこは苦手としていることもあるわけです。

成績はいい人でも、これから自分が生きて行くときに何を目標にしていったらいいかということに迷いが生まれるわけですね。生きる意味について何らの啓発的な機会をあたえられることもなく受験で勝ってきた、というケースも多いんです。それまでの人生で向き合ってこなかったことの、必然的・蓄積的結果として、大学に入って今後どう生きるかに初めて本気で向き合ったときに、「うつ」が出るとも言えます。

そうすると、単に「うつをなくす」ということではなく、自分は何が好きで、どんなことに心を動かされて、どんなことにしんどさを感じるかということに気づいていく必要があるわけです。これは社会人のうつにも言えることかもしれませんね。

ーーうつになったときこそ、人生と向き合っていく作業が必要なんですね。


そうですね。このようなうつ病の場合は、脳が機能不全になっているというより、脳がちゃんと働いているからうつになるとも言えます。安易に抗うつ剤だけで解決しようとすると、問題に向き合うことが先延ばしになってしまうこともありえます。

抗うつ薬は使い道次第でとても効果的ですが、単純にそれだけでは問題の解決になりません。

また、こうしたときに、過去だけを見ていてもだめなんです。例えば「研究がうまくいかない」とうつになったときに、過去こんな風に生きてきた、ということを振り返ることはもちろん大事だけれど、これからどう生きたらいいのか、楽しんで生きるということはどういうことなのか、と未来を見るほうが大事なときもあります。

ーー「人生と向き合う」ということにおいて、男女の違いは見られるのでしょうか?


女子のほうが比較的変化が早いことが多いかもしれません。男子は結構時間がかかることが多いです。男子にとって時間がかかるのは、やはり社会的な役割や性役割についての信念が強いからだと思いますね。それまで優等生だった学生が社会の主流の価値観ではない、自分なりの価値観での生き方を模索するというのは、挫折感を伴うのかもしれません。

というのも、男性の生き方は以前よりは多様になったとは言え、やはり地位や経済的な優位性が評価されるような価値観が強いのが現状だと思います。女性の場合、社会に出て仕事をすることが認められるようになり、一方で専業主婦というあり方も認められていて、女性の生き方の可能性はかなり広がってきていますね。一方、男性の場合、家事・育児をする生き方や「専業主夫」といったあり方も出てきてはいますが、やはり社会的に十分積極的に認められているとは言えない。そういう意味で、女性のほうが生き方が多様性に富んでいるのだと思います。男性の生き方も以前よりはかなり広がってきたとはいえ、やはり女性と同じような多様性は認められづらいわけですね。

結果として男性の場合は新しい柔軟な価値観を受け入れて進んでいくことに時間がかかることが多いように思います。

ーーカウンセリングでは、生き方やうつとどんな風に向き合っていくのでしょうか。


カウンセリングってひとつの言葉で言っているけれど、複数のものを含んでいるんです。目標も目的も課題もひとつではないのが普通です。

受ける側にとっては、症状をなくすというのは重要な目的ですね。そういう意味では、単に症状をなくすという発想のセラピーもありますが、多くのセラピーは「そもそも症状が発生したのはなぜか」というところにその人の人生の中での意味があると考えます。症状を緩和することは、その人自身の人生の再構成を伴うことが普通です。腫瘍を外科手術で取り除くように、症状だけを取り除いて、あとの人格はそのまま、というようなことはありません。今まで持っていた症状を取り除くには、人格全体のバランスが変化し、全体が変わるのを支える必要があるものです。

クライエントがカウンセリングを受けにくるときに抱いている「症状を取り除く」というイメージとは違うことも多いかもしれませんね。

そもそもなぜうつがあるかというと、たとえば環境によってその人の生きる力が歪められたためにうつが出てくることがよくあります。そのうつを治すためには生き方を変えていく必要がある。でもそれって大変なことが多いんです。うつを和らげていくために自分を見つめ、本来のその人の健康なあり方に向かう動きが出てきたとき、会社をやめて別のことをやりたくなるかもしれません。でもそうすると奥さんが反対するかもしれないし、自信がもてないかもしれません。そこをしっかり考え抜いていくのは、精神的にも肉体的にもエネルギーがいる。変化にはリスクが伴うんです。

うつをなくす過程で、他の問題に出会うし、それに取り組むことで成長していく必要がある。だから、これをカウンセリングで支えるんです。自分で掘り下げながら、うつも和らげながら、新たな生きがいのある道筋をつくっていく、という作業です。

ただ、カウンセリングの理論の中でこうした過程を概念化するとき、「うつをどうやってなくすのか」という話になりやすいのも事実ですね。その方が分かりやすいから。

ーー実際のところ、カウンセリングに効果はあるんでしょうか。


カウンセリングに効果があるのは紛れもない事実です。

研究によれば、カウンセリングを受けた人の79%が受けなかった人の平均よりも改善を見せます。統計的に言うならば、心理カウンセリングの平均的な効果量は、内科や外科医療の平均的な効果量よりも大きいというデータもあります。だからといって万能というわけではなく、もちろん思ったような効果が出ないケースもあります。大雑把に言うならば、クライエントの6割が改善する。3割はあまり変わらない、1割は悪化する、というところです。控えめに言っても、受けないよりは、受けたほうがいいことが多いというのは言えるでしょうね。

ーー逆にカウンセリングではできないことはどんなことなのでしょうか。


うつは個人の問題と捉えがちですが、社会の歪みの現れとも言えます。働くことに意味が見出せないのは、個人の問題もありますが、社会が若者に希望を与えることができていないことの表れだとも言えます。今の若者にハングリー精神がないのも当然ですね。だってハングリー(満たされていない状態)ではないんですから。豊かなんです。全て与えられていて、便利で。だからみんな優しいんです。優しい若者が増えていますね。そんな中でカウンセリングで個人だけを変えればすべて解決だ、というのは違います。

企業などでも、単純にうつ病を個人の責任に帰して切り捨てるのは合理的でないことが理解されるようになってきたはずです。ノーベル賞を受賞したiPS細胞の山中伸弥教授もうつになったことがあるくらいで、うつ病になったからといってそれをダメな個人の問題として片付けてしまえば、貴重な人材を失うことにもなりかねません。社会的価値の実現、生きがいの促進、人間的な組織運営、ハラスメントの予防などを通して、組織の風土を変えていくことが必要です。

ーーうつの背景にある社会や環境とも向き合っていく必要がある、ということですね。お忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。


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