【精神科医で僧侶という異色の経歴】「うつ急増時代」を打破する「生きる力」とは<後編>|要唱寺 住職 斉藤大法

更新日 2024年08月25日 | カテゴリ: 専門家インタビュー

自分の生き方を見つけることが大切

ーー目に見えないためか、『心』を扱う優先順位を下げてしまう方々が多いように思います。自分に対しても相手に対しても『心遣い』が欠如していると感じるのですが、いかがでしょうか?


戦後の焼け野原からの復興を図った日本は、経済成長をスローガンにひた走りしてきました。物質的な豊かさの追求こそが最大の価値観でした。それは、復興という地点までは必ずしも間違っていないと思いますが、それを達成した後も(価値の優先順の)軌道修正をしてきませんでした。ここに根本的な問題があると思うのです。それは、単に社会構造の問題ではありません。その価値観をわが価値観として固定し、動かせない我々の一人一人の問題でもあります。

このような価値観の人生や社会において、「心」というものはおろそかにされ劣化してゆきます。そのことは、社会や文化の劣化でもあり、生きにくい世の中をつくってゆきます。これ自体、うつなどを生み出す素地になっていると思います。ですから、私たちは自身の価値観がほんとうの幸せにつながるものか、ということと、単に現代社会に順応するだけでなく、果たして今の経済・社会システムが幸福を達成するものになっているかどうかをよく考えるべきだと思います。まずは「信じられる自分(の生き方)」を見つけることが、大切です。そして社会システムが、皆の安心や幸福につながらないものであれば、少しずつでも改変してゆく努力も大切です。

ーー精神科医、僧侶という2つの草鞋を履かれている住職が考える『心』や『精神』とはどういったものなのでしょうか?


私たちは、自分の意志で自由に心というものをコントロールできると思いがちです。さらに私自身をコントロールしていのは、この観念体系である”わたし”だと思いがちですが、心というものは、”わたし”という観念によって思い通りにすることは、難しいのです。心には、そのような感情、思いをつくりだすシステム(潜在意識)があり、それによって我々の思いや感情はつくられます。今日の心理学は、私たちが意識できる観念の領域は、実は私たちが通常意識化できていない潜在意識によって大きく影響されている、と考えられています(異論の方もあると思いますが・・・・)。 仏教の唯識(ゆいしき)という学問においても、ほぼ同様のことが言われております。恐らく、唯識の影響を受けてユングなどは、無意識、集合的無意識ということを提唱したものと思います。

今から1500年以上も前に、すでに仏教ではこのようなことが精密精緻に研究されていました。つまり、いわゆる私たちの「こころ」は、潜在意識の中に貯めこまれた過去(過去生も含める)からのあらゆる(思考をも含めた)体験と、それによって起こった恐怖や喜びの記憶の集積によって「我」という観念体系が形成され、それらに影響されて普段の思考や行動がつくられていると言われます。トラウマとかカルマというものは、潜在意識の中に集積された記憶の粒のようなものです。(このことは、偏桃体、海馬、側頭葉、前頭葉・・・の機能や関わりの研究が進んでやがて脳科学的にすっきり解明される時が来るかも知れません。) 以上のことが理解されるならば、私たちは発想や行動の仕方を変えることができる、ということでもあります。

そして、最大の可能性は、わたしたちの現実がどうであろうと、その心の奥、トラウマやカルマ、さらにそれをつくるもととなった迷いの根元のもっと先に、それら一切を超えた”いのちとこころの輝き”を生来的に持っているということだと思います。このことを仏教では、「仏性」と表現しています。わたしどもの唱題プラクティスの真の目的は、この根元的な心を顕(あらわ)しだすことにあります。

これまで「心の問題」を”こころ”に限定して申し上げてきましたが、その心に影響を与えているものとして体調、姿勢、生活習慣、さらに家庭や社会環境、自然環境等があります。私は、目に見えない環境、つまり家庭環境という中にご先祖の霊的な状態ということも入れて問題を捉えてゆきます。

自分の内面に信じられるもの見出そう

ーー現代に生きる人々に必要な事はなんだと思われますか?


現代の人々にとって必要なものは、いくつかあると思います。その中でも、私が最も大切でなおかつ現代人に欠落していると感じるものは「信ずる」ということです。「心底信じられるものを見つける」といっても良いかも知れません。しかもそれは、自分の外ではなく自分の内にあるべきだと思います。なぜなら、外にあるものは、常に移ろいゆくものだからです。

唱題風景

時に人は、「信じられるもの」を他人に求めようとします。しかし、それは実にはかないものです。その理由の一つは、信じるといっても、しばしば「相手に対する自己のイメージ」を信じている場合が多いのです。

この場合、相手が自分のイメージにそっているうちは良いですが、そぐわないとショックを受けやすく、時にその人を批判や非難するようになることさえあります。一方、自分自身を責めて落ち込んでしまうかも知れません。これは、非難している、あるいは責めつけてしまう自分自身の心の問題なのです。このことは、巷で良く起こっています。夫婦喧嘩やその他さまざまな人間関係におけるトラブルの根本的な原因のひとつでもあるのではないでしょうか。

これに対して、信じられるものを自分の内に見出し、育ててゆく人は、それ自体によって満たされる、ということが先ず第一。そして、外側のさまざまな変化に惑わされることなく生きることができますし、他人(の評価)に過度に依存しませんので、相手に対して寛容にもなれるのです。つまり「信じられる自分になる」ということこそが、大切だと思います。でもそれは、学校や書物で知識を覚えるのとは違いますし、他人とか知識がそれを教えてくれるものではありません。それらを参考にしつつも、自らが見出さなければならないものです。

不安や迷いをを解決するヒントの1つでありたい

ーー未来に向けて、住職並びに要唱寺としてどのようなことを願いますか?


宗教というと皆さまどのようなイメージをお持ちでしょうか?信仰。同じ信仰や価値観を持った人々の集団ならびに集団的行動などと思われたりするのではないでしょうか。あるいは、盆・正月と言う行事と死んだ時にやってもらう儀式とか・・・・・。

ところで信仰とかその集団というものは、何故存在するのでしょうか。なぜ必要なのか?ということでもあります。それは、かつては自然や他の動物などの脅威にさらされながら、弱き人類が生き抜き発展するために必要だったのではないかと思います。他にも存在理由はあるとは思いますが、そうした結束力や統一力を作り出すために宗教(神話)は、長い期間必要だったのです。

しかし、科学や科学技術がこれほどまで進み、それによって自然の制約から相当程度まで解放された人類にとって、昔のような意味での結束力強化装置としての宗教は、もはや必要なくなりつつあります。今日、集団をつくっている古い宗教システムは、老朽化し機能不全に陥り、むしろあちこちで価値観のぶつかり合い、果てには紛争・戦争の原因とさえなっています。もちろん、とても柔和な集団を形成しているところもありますが、今後多数派として広がってゆくことは、ないでしょう。

昔の宗教の名残をとどめたものが、行事や儀式だとも言えなくもありません。それは、宗教自体がほとんど必要なくなったということを意味するのでしょうか。私は、そうではないと思っています。科学がどんなに進歩しても心の迷いや不安というものは、なくならないのです。むしろストレス社会となり、精神的環境は、かつてより過酷なのではないでしょうか。

私は、皆さまがそのような歴史的必然性や推移に気づかれ、現代や生活の現場に応じた深い知恵を宗教という伝統の中から見つけて欲しいと願っています。それだけものが、宗教には在ります。ただし、今日においては、それは「○○しなければいけません」という上からの教え込みではなく、心を開き、自ら生きる方向性を見出し、深い安らぎや生きる喜びを内面から湧きあがらせ、深めてくれる方法や道が求められると思います。そして、そのことをつかんでいただければ、個人的にも社会的としてもどんなに可能性が開けるか知れないと思っています。

今の時代、自分の心と対話する時間、環境が非常に大切です。しかしながら、スピードが重視されがちで、心と対話できず、気がついたら大きな迷いや悩みの中で苦しまれている方々が増えてきています。 そんな中で、カウンセリングや唱題プラクティスを通して、一人でも多くの方々に「本来の自分」を見つけ出して欲しいと願ってやみません。

【関連コラム】「うつ急増時代」を打破する「生きる力」とは<前編>

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