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社交不安障害に見られる「注意制御機能」の低下と効果的な介入方法について|名古屋学芸大学准教授 今井正司

更新日 2016年12月15日 |
カテゴリ: 専門家インタビュー
社交不安障害に見られる「注意制御機能」の低下と効果的な介入方法について|名古屋学芸大学准教授 今井正司

人前で何かを発表するとき極度に緊張したり、仕事の電話に出るのが怖い、人に見られていると思うと手が震えてしまう、などの症状がある「社交不安障害」。
潜在的に障害を抱えている人は日本でも無視できない数だと言われており、適切な対処が必要とされています。
昨今、社交不安障害を持たれている方々には「注意制御機能」の低下が共通して見られることが分かっており、その関係性を研究されていらっしゃる、名古屋学芸大学の今井先生に「注意制御機能」とはどういうものなのか、機能の低下を改善するにはどうしたらよいのか、お話を伺いました。

ーー社交不安障害に深く関係している「注意制御機能」はどのようなものなのでしょうか。また、障害とどのような関係があるのでしょうか。


私たちは、日常生活の中で自分自身の「注意」の働きについて意識することは少ないかもしれません。しかし、注意の働き方について、よくよく考えてみると、自分の心や体の状態について知ることができます。一般的に心身の状態が良い時は、自分が集中したい物事に注意を向け続けることができます。反対に、調子がよくない時は、集中したくないものに注意を向け続けてしまうことがあります。また、注意を向けたくないものに限って、それらに注意を向けてしまうこともあります。

一般的に、自分に関連する危険や不快な情報には、自然と注意が向けられてしまいます。しかし、社交不安障害の方は、より積極的に自分に関するネガティブな情報に注意を向けようとしていることが知られています。つまり、自らの手で、自分を苦しめるような情報を自分の心に入力しようとしているのです。つまり、社交不安障害には「情報の入力」に関する注意の問題があるといえます。

もう1つの注意の特徴としては、思考・感情・感覚などを強める作用を有していることです。たとえば、車酔いをしそうな状況を考えてみてください。「気持ち悪くなってきた・・・」ということを一旦意識し始めると、その感覚が強まっていくと思います。そして、その気持ち悪さについて、一切考えないようにしようとすればするほど、その感覚や思考は意識されていきます。

社交不安障害の方は、心臓のドキドキ、顔の熱さ、手の冷たさ、発汗、震えなど、多くの生理的な感覚について注意を不適切に向け続け、それらの感覚を強めています。つまり、社交不安障害には「情報のモニタリング」に関する注意の問題があるといえます。

ーー注意制御機能にはどのような分類があるのでしょうか?


注意制御機能はさまざまな観点から分類されます。ここでは「モード」と「方向性」の観点から、注意機能の分類について説明させていただきます。

まず、重要なのは「モード」の分類です。注意の制御モードは「能動的制御」と「受動的制御」に分けられます。注意の能動的制御は、自分が注意を向けたい対象に随意的(意識的に)に注意を向けられる状態を意味しています。注意の受動的制御は、随意的な制御感がない状態で、注意を向けなければならない対象に注意が向けられなかったり、自然と注意が惹きつけられている状態を意味しています。

社交不安障害の方の場合、情報の入力段階において、積極的にネガティブな情報を検索しているようにみえますので、能動的制御のように捉えられることがあります。しかし、ネガティブな情報を検索しないではいられないという状態や、それらの注意制御の随意性が弱い点を考えると、受動的制御のモードによるところが大きいといえます。また、情報のモニタリングにおいても、感覚などに注意がとらわれている状態を考えると、やはり、受動的制御のモードであるといえます。

注意の「方向性」は、「選択的注意」「転換的注意」「分割的注意」に分けられます。選択的注意は、複数の刺激の中にある1つの刺激に注意を向けることを意味しています。転換的注意は、複数の刺激間において注意の向ける対象を移動させることを意味しています。分割的注意は、複数の刺激について同時に注意を向けることを意味しています。

刺激に囚われ続ける

私たちの研究では、社交不安障害の傾向が強い方は、「転換的注意」と「分割的注意」において、能動的制御モードの弱さが示されました。これらの結果が意味するのは、おそらく、社交不安障害の方は、情報入力の段階において、注意がネガティブな刺激に向いてしまうと、別の刺激(ネガティブでない刺激など)に注意を向けられない(転換できない)ということを意味しているのだと思われます。

また、社交場面などでは一般的に、自身の身体感覚や思考をある程度意識しつつも、会話やスピーチに集中しますが、社交不安障害の方はこれらの同時処理が苦手であるという特徴と一致します(身体感覚や思考に注意を向ける比重が高い)。

ーーこれからの社交不安障害の治療において『注意制御機能』にどう介入していくのでしょうか?


近年盛んに研究と実践が行われている「マインドフルネス」の治療要素には、能動的注意制御の促進があります。認知内容の妥当性について検討することよりも、それらの「認知内容」とどのように付き合っていくのかという「認知機能」に焦点が当てられています。これらのマインドフルネスの方法や理論と類似しているものに、メタ認知療法(metacognitive therapy:MCT)という認知科学がベースになっている治療法があります。

MCTにおいても、認知内容との付き合い方(メタ認知)について焦点が当てられて治療が進められます。治療では「ディタッチト・マインドフルネス(detached mindfulness:DM)」という「距離をおいた注意深い観察的態度」を涵養することを目的とします。MCTではDMを獲得するために、さまざまな介入技法が準備されています。

正確な情報を「能動的」に入力するトレーニング『SAR(状況への再注意法)』

社交不安障害の「情報の入力」に関する問題においては、「状況への再注意法(situational attentional refocusing:SAR)」というトレーニングを用いると効果的です。この方法は、スピーチをしている時に、相手の顔(目・口・表情)などを直視しながら、じっくり観察するというものです。

この方法のポイントは、正確な情報を「能動的に」入力し、不正確で「受動的」な情報を入力させないという手続きが含まれているということです。社交不安障害の有効な治療法に、エクスポージャーがありますが、SARを併用することで、より効果が得られやすいことが報告されています。

生活環境にある「音」に注意を向けるトレーニング『ATT(注意訓練)』

もう1つの「情報のモニタリング」の問題については、注意訓練(attention training:ATT)という方法を用いるのが効果的です。ATTは、普段の生活環境にある音に注意を向けるトレーニングです。

全部で3段階のトレーニングで構成されています。

第1段階の「選択的注意」のトレーニングでは、セラピストが教示する1つ環境音に注意を向け続けます。数分後には別の環境音に注意を向け続けるように教示をします。この手続きを10分ほど行います。

第2段階の「転換的注意」のトレーニングでは、選択的注意のトレーニングと同じように、1つの環境音に注意を向けるのですが、数十秒たったら別の音に注意を向けるように教示をします。つまり、別の音刺激に転換する間隔を短くします。この手続きも10分ほど行います。

第3段階の「分割的注意」のトレーニングでは、選択的注意や転換的注意のトレーニングで使用してきた環境音すべてに注意を同時に向けるように教示をします。この手続きは5分ほど行います。

マインドフルネスのトレーニングと似ている作用

気をつけなければいけないのは、ATTは「気を逸らし」でも「リラクセーション」でもないということです。自宅でもATTのトレーニングを定期的に実施してもらいます。

ATTを実施していると、雑念などがふと浮かんできます。その時は、雑念が浮かんだことに素早く気づき、注意を再び指定されている環境音に戻すことがポイントになります。ATTを間違って理解したまま使用すると、眠くなるなどの報告を聞くことがあります。しかし、注意を向け続けるという作業は想像以上に精神力を要しますので、意識が研ぎ澄まされることはあっても、眠くなることなどはまずないでしょう。

このあたりの注意の作用は、マインドフルネスのトレーニングと非常によく似ています。社交不安障害の方は、自分の内的事象(感覚・思考・イメージ)にとらわれていることが多いので、ATTを実施することで、「集中しなければいけないもの(スピーチや会話)に集中する」という能力も身につきます。

具体的には、不適切な自己モニタリングではなく、「緊張」という感覚や思考と距離をおきながら、「緊張してる、と感じている」と自分を観察しつつ、本来の目的となる行動に力を発揮できるようになります。この時の「距離をおく」というのは、回避的な意味合いではなく、「距離をおくことができる」という心的態度が含まれています。

ーー以上のように、各トレーニングにはセラピストからの指導を必要としますが、日常生活に取り入れられる部分もあります。注意制御機能と社交不安障害との関係性を理解し、各トレーニングのポイントや目的を把握しておくことで、セラピストとスムーズな治療に取り組めるのではないでしょうか。

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