自分の有能さを示すことばかりに心を奪われている。なにかにつけ、自分が有能であるということを自他に確認せずにはいられない。「バカだと思われやしないか」と心配ばかりしている――。あなたの周囲にこんな人はいませんか。いえ、ひょっとしたらあなた自身がそうなのでしょうか。

上記のような考え方をする人は、能力は伸ばせないものと、端から決めつけているのではないでしょうか。

マインドセット（心のあり方）という考え方があります。

「ほら、また前時代的な精神論だろう？能力は生まれついたときから規定されているんだ。すでに手元にカードは配られているんだ――。」そのように言う方もいるかもしれません。

ほんとうにそうなのでしょうか。

能力は固定的？伸ばすことができる？

能力について、世の中には2種類の考え方があります。

1. 能力は生まれついたときから決まっていて、固定的である。
2. 能力は環境と努力によって伸ばすことができる。

スタンフォード大学のドゥエック博士は前者を「こちこちマインドセット」、後者を「しなやかマインドセット」と呼称しています。

パズルを解く子供の実験から見えてくるもの

ドゥエック博士は400人の小学生を対象に実験を行いました。

まず、最初に子どもたちにやさしいパズルを解かせます。そして子どもたちをAとBのグループに分け、Aのグループに対しては才能を、Bのグループに対しては努力を褒めました。次に子どもたちに新しいパズルに挑戦させ、このとき、「やさしいパズルと難しいパズル、どっちがいい？」と聞きました。

すると、才能を褒められたAグループはやさしい方を選び、努力を褒められたBグループは難しい方を選びました。才能を褒められたグループ――すなわち簡易「こちこちマインドセット」の子どもたちは困難を避けたのに対し、努力を褒められたグループ――簡易「しなやかマインドセット」の子どもたちは、自ら困難に挑戦したのです。

実は、能力は努力によって伸ばせることが、数々の場面で実証されています。

「こちこちマインドセット」と「しなやかマインドセット」の違いとは

「こちこちマインドセット」の人は、自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらないと信じています。だからこそ、自分は有能であると繰り返し証明せずにはいられないのです。

いっぽう、「しなやかマインドセット」の人はどうでしょうか。「しなやかマインドセット」の人たちは、努力すれば能力は伸ばせると信じています。失敗など、ものともしません。むしろ、失敗すらも自分自身を成長させる糧にしようとします。

こちこちマインドセットとしなやかマインドセット。どちらを選ぶかはあなたに委ねられていますが、どちらを選ぶかによって、その後の人生は大きく左右されると言っても過言ではないでしょう。なぜならば、こちこちマインドセットの人は、ひとつの失敗によって自分が「失敗者」「無能者」の烙印を押されたかのように感じてしまい、その失敗から学習することや、努力することをやめてしまうからです。

最期の日に、なんと言って死ぬか

『徒然草』において兼好法師は、「芸事で『下手なうちは人目につかないよう隠れて練習しよう。上手くなったら初めて人前に出よう』と思っている者はひとつの芸事も習得できない。下手なうちから人前に出て、笑われても平気な顔をして披露し、練習を重ねる者のみが芸事を習得できる」と述べています。感覚的にそれはそうだろうな、と理解できるのではないでしょうか。

同じことは人生についても言えます。自分の限られた能力を証明することに執心し続けて一生を終えるか、それとも努力を続け、いまわのきわに「自分は可能性の限りを尽くした」と言って一生を終えるか。たとえ失敗をして笑われたからと言って、それがなんだというのでしょうか。笑われて屈辱だと感じるのは、嘲笑を浴びることによってさも「自分には欠陥がある」ように思えてしまうからです。「しなやかマインドセット」の持ち主であれば、能力は成長を続けることを理解しているので、嘲笑などまったく気にならないことでしょう。

選択はあなたにゆだねられている

マインドセットを変えるかどうかは、選択はあなたにゆだねられています。

人間は、他人から「変われ」と言われて容易に変われるものではありません。自分自身で選択し、決断しなければ結局のところ変われないのです。あなたが「こちこちマインドセット」のほうが居心地がいいというのであれば、それもまた自由だと思います。重要なのは、マインドセットは自分で選びとれるものだということです。あなたは、どちらのマインドセットで人生を送りますか？

参考書籍

• キャロル・S・ドゥエック『「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力』草思社）