「自己実現」しなきゃだめなの?本当の自己実現の意義とは

更新日 2018年10月01日 |
カテゴリ: 自信がない
「自己実現」しなきゃだめなの?本当の自己実現の意義とは

自己実現とは何か?

自己実現という言葉は、これまでにさまざまな場所や学者によって使われてきました。簡単にいうと、自己実現とは、「もっとも自分らしく能力を最大限に発揮できる」心理的な状態に成長した自分ということになります。

臨床心理学の分野では、カール・ロジャーズという学者がこの概念について論じたことで、世の中に自己実現という言葉が知られるようになりましたが、その後の社会ではロジャーズが意図したのとは違う方向で自己実現という概念が使われてきました。

自己実現アノミー:押し付けられた自己実現、与えられない達成の手段

自己実現は、教育や経営の分野でよく使われています。特に、進路や自己啓発の場面で、「自己実現を目指すことがいい」「生きがいをみつけなさい」「人間は元来自己実現の欲求を持っている」と盛んに用いられるようになり、社会に広まりました。そして、自己実現を目指すことが社会的に正当なものだ、もしくは、目指さなくてはいけないものだとなったのです。つまり、自分自身が自己実現を望んでいるようで、本当は、社会的に煽られた欲求であるということです。

社会教育学の研究者である苅谷剛彦は、若者が「自分らしくなくてはいけない」「自己実現すべきである」という欲求は社会によって強化されているのに、それを達成する手段が社会の中で十分提供されていない状態を「自己実現アノミー」と呼んでいます。

社会からの圧力ではなく、心の解放としての自己実現

もちろん、自己実現を達成することは素晴らしいことです。しかし、人間は様々な制約のもとで暮らしているのであり、社会的に評価されるような自己実現を果たす機会や環境に恵まれるわけではありません。そのような中で、自己実現を善として圧力をかけるというのは、酷なことです。

では、達成できる環境にない人は、自己実現を諦めなければならないのでしょうか?自分らしく仕事や学業で思う存分能力を発揮することは、叶わないのでしょうか?

臨床心理学者のロジャーズは、そもそも「自己実現」を社会ではなくその人個人の欲求として、また、圧力ではなく心の解放として捉えています。

「本来の自分」と「自己概念」を一致させる

ロジャーズは自己実現を「本来の自分」と「自分が思う自分(自己概念)」の関係から考えています。また、「実際の自分」と「自分が思う自分」を隔てる偏った評価や思い込みを解消することを「自己一致」といいます。さらに、そこから心理的な成長を遂げることを自己実現することだとも論じているのです。一つ、たとえ話をしましょう。

母親に間違った自己評価を植え付けられた男の子の例

優秀な学者である父親をもつ、ある小学生の男の子がいたとします。この前のテストが返却されて、結果は一問ミスの99点でした。しかし、母親にテストの結果を見せたときに、「なんで満点じゃないの?お父さんはあんなに勉強できるのに。」と言われた、激しく叱責されました。このようなことは、今回だけでなく以前からありました。しかも、今後も続くでしょう。

この男の子には、きっと十分に学問の才能が備わっていますが、本人はそうは思わないでしょう。

自分には父親のような才能はないと思い込み、勉強に対する意欲も落ちていきます。仮に怒られたくないからという理由で勉強に励んだとしても、大きなストレスになるに違いありません。つまり、母親の偏った価値観によってこの才能ある男の子の可能性は狭められてしまったのです。

彼の可能性を再び広げるには、彼の心の傷を癒し、才能がないという考えは母親に植えつけられたものであること、本当は自分に才能があることに気づく必要があります。そして、「自分はうっかりミスが多少はあるけど、勉強できるんだ!」と思えるようになることが必要なのです。

おわりに

自己実現を押し付けられるばかりでは「どうして自分はできないんだ!」と自己否定に陥って、かえって自己一致・自己実現が阻害されてしまう可能性すらあります。

ご紹介した男の子の例のように、自身の可能性を狭める間違った「枠組み」から自分を解放し、自分を正しく評価することが、自己一致、ひいてはその能力や個性を活かす自己実現に繋がっていきます。

そしてそれは、より心理的に、人間的に成熟していくために大切なステップなのであり、社会的に押し付けられるべきことでは決してないのです。

参考文献

馬場 謙一 臨床心理学 (弘文堂入門双書)
苅谷 剛彦 グローバル化時代の大学論1 - アメリカの大学・ニッポンの大学 - TA、シラバス、授業評価 (中公新書ラクレ)

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