更新日 2024年08月23日 | カテゴリ: うつ病・憂うつな気分
日々の生活を送る中で、誰しもが気分の落ち込みを経験します。このような時、なかなか気分の落ち込みから抜け出せず、不眠や食欲の低下、疲れやすさといった身体の不調を示し、自分を責め、物事に集中するのが難しくなってしまう方がいます。これらは抑うつの症状であり、ある一定の基準を満たした場合、うつ病と診断されます(例えば2週間以上持続する、症状によって日常生活に支障をきたす)。 世界各国で行われた調査で、男性よりも女性の方が2倍うつ病になりやすいことが示されました。故スーザン・ノーレンホエクセマ先生は、女性がうつ病になりやすいのは、女性の方が「反すう(rumination)」しやすいからだと考えました。
心理学(特にうつ病の研究)において、反すうは「自分自身の抑うつ状態や、その状態に陥った原因・結果について考え続けること」を指します。例えば、憂うつになった時に「なぜこんなに落ち込んでしまっているんだ?」「なぜこんな事態になってしまったんだ?」「なぜあんなことをしてしまったんだ?」と自問し、その答えを探し(例えば「それは自分の性格に問題があるからだ」)、そしてまた自問を繰り返します(例えば「なぜ自分はこんな性格になってしまったんだ」)。「今日は気分がすぐれないから出掛けることができない」と、その後のことを考えることもあります。このような一連の考え方が「反すう」です。
これまでに行われた研究により、以下のことが明らかになりました。まず、気分が落ち込んでいる時に反すうすると、更に気分が落ち込みます。また、反すうしやすい人はうつ病になるリスクが高いです。それに加え、女性の方が反すうしやすいことが分かりました。つまり、女性の方が反すうしやすいためにうつ病になりやすい、と考えられます(もっとも、反すうしやすい男性もうつ病になりやすいのですが)。
反すうし続けると、落ち込んだ元々の原因とは関係のないことまで考えてしまいます。例えば、仕事でちょっとしたミスをした際、最初はそのことについて考えていたが、次第に別のミスについて考え始め、子どもの頃にした失敗や人間関係でうまくいかないことまで考えてしまいます。また、疲れや睡眠不足が原因で気分がすぐれない時であったとしても、現在の不調とは関係のない、勉強、仕事、人間関係についてくよくよと反すうしてしまうことさえあるのです。それによって気分がどんどん落ち込んでいきます。
反すうは他にも多くの問題をもたらします。まず、憂うつさや身体の疲ればかりに意識が向いてしまい、気晴らしをしたり、友達と話をしたり、やるべき課題をこなそうという意欲がなくなってしまいます。そのため、自室で横になっている時間が増えますが、その際にも反すうを続けるため、気が晴れません。やらなければならないことが片付かず、更に気分が落ち込むことも多いです。 次に、反すうすると、事態を悪い方向にばかり考えてしまいます。例えば、仕事のミスをした後に反すうし、もう仕事をクビになってしまうと考えたり、友達と口喧嘩をした後に反すうし、相手とは二度とうまくやっていくことができないと考えてしまいます。
更に、反すうしやすい人は人間関係に過敏になり、他の人から嫌われていないか気にしてしまいがちです。そのため、相手に嫌われないために相手の頼み事を断れなくなったり、相手に頼み事ができなくなったり、自分の意見を言えなくなってしまいます。その結果、やらなければならない仕事が増えたり、意に沿わないことを我慢してやらねばならなくなります。相手のちょっとした言動から自分が嫌われていると思い込み、相手と距離を取ってしまう場合もあるでしょう(例えば、その人に話し掛けなくなる)。元々は相手があなたのことを嫌っていた訳でもないのに、あなたが距離を取っていることに気づき、本当に相手から嫌われてしまうこともあります。
あるいは、相手が自分から離れていってしまうのが怖くなり、相手が自分に親しみをもってくれているのかチェックすることもあります(例えば相手にメールを頻繁に送り、返信が来て安心する)。これが過剰になると、逆に相手から嫌われてしまうでしょう。 反すうしやすい人は、これらのいくつか(またはすべて)の問題を抱えることによって、身動きがとれない状態にまで陥ってしまうのだと考えられます。反すうはちょっとした落ち込みを大きな問題へと発展させてしまうのです。
反すうしやすい人は、なぜ反すうしてしまうのでしょうか。この点については様々な説明ができますが、最も簡単な説明は、「反すうすることが癖になってしまっている」ということだと思います。反すうしやすい人は、自分で気づかぬうちに考え込んでしまっていることが多いです。そのような癖がついてしまっているために、いつの間にか気分を落ち込ませる悪循環に陥ってしまっているのでしょう。
では、そのような人たちはなぜ反すうする癖を身につけてしまったのでしょうか。その起源の1つに、幼少期に家族(特に両親)から受けた養育が挙げられます。両親から愛情にあふれ、自立を促すような育てられ方がなされなかった場合、その子どもは成長後に反すうしやすくなることが明らかになっています。恐らく幼少期にこのような対応をされた場合、自分は他の人から受け入れられないと考えやすくなったり、何か問題が起きた際、自分自身で事態を解決する術を身につけられないのでしょう。
また、近年の研究において、反すうのしやすさに遺伝が関連することが示唆されています。遺伝子に刻まれた情報は、母親の中で受精卵が誕生した瞬間に決定しているのですが、それがその子どもの反すうのしやすさを規定すると考えると、何とも不思議な感じがします。もっとも、反すうと遺伝子の関連については研究が始まったばかりであり、結論が出るのはまだ先のことでしょう。
他にも反すうを導く要因は多数存在します。例えば、学生時代には反すうと無縁であったが、就職後に職場で苦労をして反すうしやすくなってしまうこともあります。人間関係でうまくいかず、反すうする時間が増えてしまうこともあるでしょう。 重要な点は、一度反すうする癖を身に付けてしまったとしても、後からその癖を弱めることが可能である、ということです。以下ではその方法について紹介します。
上記の通り、反すうし、気分が悪化すると、活動量が低下します。しかし、気分や身体の調子がすぐれないためにベッドで横たわっていたとしても、横たわりながら、身動きを取れない自分自身について反すうしてしまう、という事態はよく起こります。反すうすると気分は更に悪化し、身体を動かしていないにも関わらず疲れが増幅されます。例えば、仕事中に溜め込んだ疲れを癒そうと週末を家で過ごしたとしても、反すうによって更に気分と疲れが悪化し、その状態で週明けに出勤する、というパターンに陥っている方がいます。
そのため、身体を休めてもなかなか疲れが取れず、気分が晴れないという方には、一度活動量を増やしてみることをお薦めします。外の空気を吸って景色を眺めるだけで、自室で横たわっている場合よりも反すうが和らぎます。運動や買い物といった自分の好きなことをすると、更に反すうする時間が減るでしょう。家事、課題、話し合い等も、取り組むまでは気が重くても、いざ取り組んでみると意外と気分がすっきりし、逆に楽しくなってくることすらあります。もちろん、反すうしやすい方は取り掛かるまでに苦労するので、一工夫必要でしょうが(例えば、予定を立て、その通りにできたら自分自身にご褒美を与える)。
また、気分が落ち込んでいる時には他の人と会うのがおっくうになりがちですが、逆に悩んでいることを親しい人に聞いてもらうと気分がすっきりします。相手からアドバイスをもらわなかったとしても、話を聞いてもらうだけで気分が改善し、反すうが軽減されます。恐らく感情の発散や気持ちの整理に役立つからでしょう。そのため、気分がふさぎ込みがちな家族や友人に対して何か手助けをしたいと考えている方がいらっしゃいましたら、まず相手の悩み事を丁寧に聞いてあげるのが良いと思います。アドバイスをしたり、解決方法について話し合うのは、一通り話を聞いた後にするのが良いでしょう。
先ほど相手の頼み事を断れない、相手に頼み事をしたり意見を言えない、というケースについて紹介しました。このような時、思っていることを相手に素直に話してみると、意外とうまくいくものです。相手から嫌われてしまったと思い込み、距離を取ってしまった時にも、勇気を出して話し掛けてみると、相手からにこやかに対応される場合もあります。もちろんうまくいかないこともありますが、チャレンジをしてみる価値はあるでしょう。
ここまでに挙げたものは自分自身で試せる方法です。ただ、これらを試してもなかなか反すうを止めることができない、という方も多いのではないでしょうか。その場合には、医療機関や心理相談室をお訪ねになって頂くのが良いと思います。私が専門とする認知行動療法では、反すうのような否定的な考え方の癖を弱めるための方法を用意しています。例えば、普段どのような考え方をしているのか紙に書き出した上で、その考え方が正しいかどうかを確かめてみたり、別の考え方を試してみたりします。これらを自分一人でやるのはなかなか大変ですので、臨床心理士がそのお手伝いをさせて頂きます。
以上の内容は、これまでに得られた反すうに関する研究結果からなるべく逸れないように意識して書いたものです。大学といった研究機関で行われている地道な研究の成果を紹介する機会を頂くことができ、大変光栄に感じております。実は、反すうはうつ病や関連するテーマに取り組む世界中の研究者に注目されている現象であり、現在も盛んに研究されています。10年後、20年後には更に斬新な考え方をご紹介できるかもしれません。それが実現することを夢見て、今後も研究に励んでいきたいと思います。最後までお付き合い下さり、どうもありがとうございました。
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