パワハラ・長時間労働は「安全配慮義務違反」?メンタルヘルスと安全配慮義務の関係性とは

更新日 2024年08月29日 | カテゴリ: 職場のメンタルヘルス

「安全配慮義務」と言われると、一見すると危険物の取扱いや高所作業といった職種に特定された話に感じられますね。 確かに昭和の時代には、「安全配慮」とは労働者の身体的な安全の管理責任が問われるものでした。

しかし、現在では安全配慮義務違反としてパワハラの看過、長時間労働といったメンタルヘルスの管理が含まれる可能性が高くなっています。ここでは安全配慮義務について、抑えておくべき基礎的な知識を解説していきましょう。

1. 安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは、原則的には二者間で一方もしくは両方が相手の命や身体の安全を守ることを配慮する義務のことを指します。 この二者の一方が雇用者(企業側)であり、一方が労働者(社員)である場合、企業は社員が安全に働けるよう、必要な配慮を行わなくてはいけません。

上記、安全配慮義務については、長いこと労働基準法等の民法を含む法律での規定が無い状態にありました。 しかしながら、労働安全衛生法そして労働契約法の改正によって、労働契約のルールの明文化が図られるようになり、雇用者側はより徹底した安全配慮義務を負うこととなっています。

【労働安全衛生法 第四条】

労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない。

【労働契約法 第五条】

使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

2. 安全配慮義務とメンタルヘルス管理

上記労働契約法第五条においては、「労働者のその生命、身体等」の『等』の部分の解釈が論議を呼んでいます。 つまり身体等にうつ病等の「精神障害」等を含むべきか否か、という点が問題と成るわけですね。 法解釈についての議論は流動的であり、現在のところも確定的な回答が出たわけではありません。

しかしながら実際の裁判判例では過労死による判例、過労自殺による判例等で上記安全配慮義務に「心身の健康」が含まれた解釈がなされています。

つまり勤務中のケガや事故といったものだけでなく、過剰な時間外労働(残業)による過労自殺、過剰労働による脳や心臓等の病気、そしてうつ病等の精神障害(精神疾患)についても安全配慮義務(健康配慮義務)の一環であるという考え方が一般的となってきているのです。

企業側のメンタルヘルスケア、社員のメンタル管理がより重視される時代が来たと言えるでしょう。

3. 安全配慮義務違反とは

現行までの裁判判決等では、以下の3つの条件に該当するものを「安全配慮義務違反」であるとしています。

1 )予見の可能性があったこと

心身の健康被害等の予見・予測ができることも含まれます。当人が予見ができない状態であったとしても、一般的に見て予見可能な状態という認定を受ければ「予見可能性あり」とされます。

2 )回避義務を怠ったこと

健康被害等の結果が予測できたにも関わらず、その結果を回避すべき対策や環境改善を行わなかった場合、義務が果たされなかったと考えられます。

3 )因果関係が認められること

過去の判例では長時間残業と自殺の因果関係が認められ、高額な賠償金判決が出ている判例も多数あります。

例えば上司によるパワハラ(パワーハラスメント)が有ったにも関わらず企業側が対策を行わなかった場合、パワハラを看過したことは安全配慮義務違反であるとされる可能性は非常に高いと言えるのです。

安全配慮義務を違反した場合、民法709条【不法行為責任】、民法715条【使用者責任】等を根拠として使用者側(企業側)は損害賠償責任を負うこととなります。

賠償額には精神障害治療のための治療費、入院費、休業損害、弁護士費用等の他、自殺等による死亡・障害等の場合には慰謝料も含まれます。 2000年の電通事件(長時間労働によるうつ病への羅患と自殺)では、遺族からの損害賠償請求によって最終的に1億円を越える多額の支払いを求める最高裁判決が出ていることも留意しておくべきでしょう。

おわりに

うつ病等の精神障害(精神疾患)で労災の請求を行う人数は2016年には1500人を突破し、今後もこの人数は右肩上がりに増えていくことが予測されています。

「安全配慮義務」の裁判における解釈でも、メンタルヘルスの重要性が今後益々問われていくことは確実と言えます。 万一のケースを考え、企業側は常に社員のメンタルヘルスケア、パワハラ対策等に邁進していく必要があるのです。

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