ストレスチェック制度の現状と課題〜仕事しやすく、働き甲斐のある社会づくりのために|合同会社パラゴン 代表社員 櫻澤博文

ストレスチェック制度の現状

2016年11月末までに、50人以上の雇用をかかえる事業者に実施が課せられたストレスチェック制度。

西日本新聞調査では九州7県での実施完了率はわずか4.8%に過ぎないことが2016年9月12日に判明しました。 2016年11月末とは、ストレスチェック制度の初年度実施期限です。実施後に希望する労働者が出た場合には、医師による面接指導の実施が義務付けられています。

これらが完了しない限り西日本新聞が調査した元である「様式第6号の2.心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」(以下「報告書」)は所轄の労働基準監督署に提出できません。この報告書には面接指導を受けた労働者数の報告欄もあるからです。

ストレスチェック面接医のための「メンタル産業医」入門』(日本医事新報社刊)にも著したように、ストレスチェック実施準備の最終時期は10月末であり、医師による面接指導の実施は翌年2月中です。従って今後、実施完了率は増加することが見込まれます。

実際に長崎県のようにまだ1.8%しか提出出来ていない県があることが判りました。筆者の身近でもマイナンバー対応、クロスアクション対応、行政不服審査法対応と民間も行政も、透明性や説明責任確保という民主主義から自由主義への変革の真っ只中にあり、ストレスチェック制度構築は後回しというところがいくつかございます。

加えて熊本・大分の震災や、特に東北や北海道での台風の被害から、実施が遅れている企業も少なくないでしょう。実際に先の新聞報道にも熊本労働局には「猶予制度はないのか」などの問い合わせが相次いでいるそうです。

とはいえ報告書を提出しない事業所には50万円以下の罰金が科される規定が労働安全衛生法に課せられています。2017年に入ると未提出の事業所に対する呼び出し指導が労働基準監督署から開始されることも西日本新聞社調査で判明しました。

九州7県が全国の代表かどうかは統計学的検定が必要ですが、仮に代表値だとします。すると4.8%の逆数ですから20.8倍ものストレスチェック実施が今後、予定される実際があると想定できます。

ここで以下を考えてみませんか。筆者が2016年9月10日に経営先のHPを通じて警告していたことです。

ストレスチェック制度の今後について考えたいこと

1. 実装が追い付かない

ストレスチェック自体は手計算でも処理できます。でも労働者側がオンラインで簡単にストレスチェックを受けるためには、作り込みが必要です。ストレスチェックをきちんと受けてもらうためにも、ストレスチェック制度の説明や内容について、丁寧に社員に説明しなければなりません。

何しろ受検率は6割が目途となっています。面接希望者は厚生労働省の招集した専門家らの想定である1%より大幅に低く、実際には皆無であったり、0.02%に過ぎなかったりという企業も出ています。 驚くことに産業医に対して説明なく、突然IPアドレスを求めてくる業者さえあります。

普通の医師であれば「怪しい」と感じるでしょう。そのような営利企業が、口先八寸の営業者が言葉巧みに人事労務担当者を攻落する様は早くは「ゼロから始めるストレスチェック制度導入マニュアル」(労務行政)にて亀田高志先生が警告を出していたことですが、未だにはびこっています。

面接を申出しやすい、風通しの良い環境づくりを形成することも、ストレスチェック制度の良い意味での副産物であるはずです。

2. 2016年11月末に向けて実装を進めてきた業者のサーバーダウン

ストレスチェックの初回度実施期限が11月末とされているのは、改正労働安全衛生法の施行日が2015年12月1日だったからです。それから1年後が2016年11月30日です。

従って11月末に向けて多くの企業が、営業担当者に言われるまま契約を交わしてしまいました。いわれるままの契約の危険性を筆者は2015年10月30日時点ですでに問題視していました。

3. 面接医の当て

ストレスチェックにて「高ストレス者」と区分された方のうち、実際に医師による面接を受ける方がゼロという企業さえ出てきています。厚生労働省の招集した専門家らの予想が大幅に外れました。

そもそも前述の亀田先生によると、全国でメンタル対応ができる医師は千人にも満たないとの推定がありました。そのような中、複数のストレスチェック制度新規参入業者が医師斡旋会社に面接医確保に走り、医師斡旋業者に群がりました。

ある医師斡旋会社では、メンタル対応が可能な医師は30人で、身体対応可能な医師や医療機関を含めると270か所は確保しているとHPで記載しています。しかしながら業者側は270名の「専門医」をストレスチェック対応可能な医師だとHP上で宣伝するなど、不誠実な業者も目立ちます。

以上のような課題を解決するために、「問題は問題と思った者が解決しない限り、問題のまま」と捉えている筆者。

高ストレス者と区分された労働者が、会社の用意する医師との面接に対して、心理的に拒否反応を示し、そもそも面接を希望しなくなる事態は会社のせいでもなく労働者のせいでもない。理念も信念もない営利企業と“面接医特需が出る”とぬか喜びした医師紹介業者が金にものを言わせ、侵害したせいである。でも、高ストレス者が医師による面接を希望することなく、会社側も助ける機会を提供することもなくメンタル疾患を発症したり、更には自死に至ったとしても、連中に対して責任を追及するのは難しいであろう。そのような不幸を出さないために、高ストレス者が利用しやすいカウンセリングサービスを提供して欲しい」と考え、必要に応じてcotreeのオンラインカウンセリングサービスを紹介しています(詳細はこちら)。

また、ストレスチェック実施の現場で生じる可能性のある課題や疑問点につき、できるだけ丁寧に解説した書籍を発行しました。専門職の方だけではなく、人事労務担当者の方にも手にとって頂きたいと考えています。

ストレスチェック面接医のための「メンタル産業医」入門(日本医事新報社)2016年9月16日発売
保健指導リソースガイドでも紹介されています。)
<対象> 医療・心理専門職、衛生管理者、企業の人事労務担当者向け

メンタル不調者のための復職・セルフケアガイドブック(金剛出版)2016年10月30日発売
<対象>休職・復職で悩む当事者とご家族,企業の人事労務担当者や産業カウンセラー,精神科医,心理士,精神保健福祉士等

今般の「ストレスチェック制度」をきっかけに、更に働きやすい職場環境の形成やハラスメント撲滅、キャリア・コンサルティングを通じたより働き甲斐を感じる仕事選びの推進協議も始まっています。

更に女性や高齢者でも働きやすい労働市場の形成や多用な働き方の促進や働き方改革に向け、ストレスチェック後の未来に向けて、準備していきたいと考えています。

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